『ぼくを燃やす炎』待望の姉妹編
ダリオとオスカルのもうひとつの物語
書名:ぼくに流れる氷
作:マイク・ライトウッド
訳:村岡直子
発行年:2023年10月
仕様:四六判/並製本/602ページ
ジャンル:フィクション(ヤング・アダルト15歳以上)
ISBN:978-4-909125-45-3

姉妹編『ぼくを燃やす炎』

私たちはみな深く傷ついているが、同時に誰かを傷つけながら生きている。
深く後悔し罰を受けながら、許しを請う機会を待ち望んでいる。
勇気をもって諦めずに手を差し出し続ければ、きっと誰かが、手を握ってくれる。

何度失敗しても謝罪を試みるダリオを、私たちは見習うべきだ。
罪悪感と羞恥心を抱きながら他者と関わり続けることしか、償う方法はない。

−−− ティーヌ(読書サロン代表)−−−

著:マイク・ライトウッド(Mike Lightwood)
ブロガー、翻訳家。ネットを通して知り合った若者たちの体験を下敷きに『ぼくを燃やす炎』(原題:El fuego en el que ardo)を書き上げて以来、続々と小説を発表。 Lo que nunca fuimos(ぼくたちが決してならなかったもの)で第1回 LGTBI 電子文学賞を受賞した。近年では SF、ユーモア小説を手掛けるなどジャンルを広げている。

翻訳:村岡直子(むらおか なおこ)
兵庫県出身、同志社大学文学部卒業。スペイン語翻訳者、講師、校正者。訳書に『雌犬』(ピラール・キンタナ著、国書刊行会)、『ガラスの虎たち』(トニ・ヒル著、小学館)、『ラスト・ウェイ・アウト』(フェデリコ・アシャット著、早川書房)、共訳書に『地政学の思考法』(ペドロ・バーニョス著、講談社)などがある。
状況を変えるのはぼく次第。
恐怖に支配されるままなんてだめだ。
人生の手綱は自分でとるべきなんだ。

ゲイというセクシュアリティをどうしても受け入れることができない、高校生のダリオ。親友オスカルとは「秘密の関係」を楽しんでいたが、ある事件がきっかけでその関係が崩れ出していく。早くに両親を亡くしてしまい、たった一人の家族は毎週教会に通う祖母だけ。ゲイバレして、親友も家族もなくしてしまうことを恐れていたダリオにもやがて転機が訪れる。

だれにも見せられない脆さを抱えてもがく
ゲイの少年のリアル

 2018年に当社から刊行された『ぼくを燃やす炎』は、親友に恋して拒絶されたばかりか、ゲイであることが周囲にばれて自傷行為を始めた少年、オスカルが主人公だった。本書の主人公はオスカルの元親友で、アウティングにより彼を地獄に突き落とした張本人、ダリオ。オスカルが試練を乗り越えて前へ進みだすまでと同じ時系列でダリオの日々を描く、いわばもうひとつの『ぼくを燃やす炎』だ。

 オスカルを苦しめたことで、ダリオも苦しんでいた。オスカルが体から血を流していた間、ダリオは心から血を流していた。彼もオスカルに恋をしていたからだ。だけどダリオは、自分がゲイだとは認めたくなかった。認めるわけにはいかなかった。たったひとりの家族である祖母にそのことを知られたら、家を追い出されるかもしれない。

 ひりひりする心を癒すため、ダリオはゲイ・クラブに通うようになった。だがそこで知り合った少年たちとも軋轢が生まれ、ダリオの苦悩はさらに深まる。どうして自分は人を傷つけてしまうのか? やがて彼は、自分を変えようと決意する――。

 LGBTQだけでなく、様々な性自認が存在することについての知識は近年、少しずつ広まってきたように見える。だがそれに対する理解は深まっているだろうか。社会の無理解と偏見に悩む当事者の数が、少しでも減ったといえるだろうか? 前作と同様、自身もセクシュアル・マイノリティである作者が、性自認の問題を抱える若者たちのリアルな声をもとに紡ぎ出したのが本書。自己を否定するあまり、自分ばかりか他者をも傷つけてしまう少年の痛みとあがき、そして希望と再生を描く物語だ。