スペインのオススメ本を日本に紹介する「New Spanish Books 2016」選定作品。
少年どうしの恋を性まで踏み込んで描くYA作品
『El fuego en el que ardo(ぼくを燃やす炎・仮)』
スペインから異色のヤングアダルト。LGBT(性的少数者)の苦悩を書く。
書名:El fuego en el que ardo
著者:Mike Lightwood
出版社:Plataforma Editorial
発行国:スペイン
発行年:2016年
言語:スペイン語
仕様:並製本/379ページ
ジャンル:フィクション ISBN:978-8416620197
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ぼくは「ゆっくりと死んでいく」ように生きていた。

月曜の朝。学校に着く前から、オスカルの地獄は始まっている。後ろから叩かれ、「おかま」とののしられる。教室に入っても、椅子にガムがはりついていないことを確かめてからでなければ座れない。オスカルに面と向かって話しかけてくるクラスメイトはだれもいない。今やたったひとりの親友となったフェルを除いては。

ことの始まりは、もうひとりの親友だったダリオに「好きだ」と告白したことだ。彼の「気持ち悪い」という言葉、そのときの目つきに、オスカルは傷ついた。おまけにダリオは、告白されたと他人に言いふらした。ゲイだという噂が広まるとすぐ、みんなのいやがらせが始まった。

(「New Spanish Books 2016」青砥直子氏によるリーディングより)


いじめを経験したLGBTの割合は過半数にのぼる


近年、“LGBT”ということばも一般に広く認知されるようになり、企業や地方自治体などでも、性的少数者を区別しない社会を目指そうとする動きが高まりつつある。とはいえ、現場レベルではうまくいっているとは限らない現状がある。特に、成長過程にある多感な子どもたちへの対応は難しく、教育現場でも手さぐりが続いている状況だ。

同性愛者やトランスジェンダーといった性的少数者(ここではLGBTとする)のうち、58%が小中学校時代にいじめられた経験があり、21%が不登校を経験していた。自傷行為の経験がある人も10%にのぼった。また、学校の先生がいじめの解決に役立ったと思うか、という問いに対して、67%が「そう思わない」と答えており、性的少数者への学校現場での対応にはまだまだ課題があることを浮き彫りにしている。(ライフネット生命保険の委託により、宝塚大看護学部の日高庸晴教授が実施したアンケート調査による)

本プロジェクトで翻訳刊行を目指す『ぼくを燃やす炎(仮)』は、同性愛者の青年・オスカルを主人公にしたスペインのYA(ヤング・アダルト)作品だ。


学校にも家にも居場所を失っていた。
たまたま好きになるのが男の子だったから。


親友に募らせていた恋心を告白したことがきっかけで、オスカルは過酷ないじめに遭うようになる。親友は思わせぶりな態度であったにもかかわらず、態度を一変し、級友たちに言いふらしたのだ。追いつめられたオスカルは自傷行為をくり返すようになる。ストーリーは先のアンケート調査をそのまま表しているかのようだ。

やがて、オスカルは強くなるために通いはじめた柔道教室で自由な価値観を持つ青年セルヒオと知り合う。学校のみならず、旧態依然とした男性優位主義者の父親が支配する家のなかにも居場所を見つけられなかったオスカルにとって、すべてを受けとめてくれるセルヒオは精神的な支えとなった。ふたりは自然と惹かれあう。しかし、かんたんにはいかない。積極的に好意を表現するセルヒオに対して、前の失恋を経てどうしても前に踏み込めないオスカル。そんな折、とうとう父親に同性愛者であることがばれてしまい…。

本作は、オスカルとセルヒオの恋のゆくえを読ませる恋愛小説としての醍醐味を軸にしながら、複雑な家庭環境にある思春期の少年の自立を描き、多様な愛を認める社会の実現を問う。思春期の子どもたち、その親、教育現場にいる人たちにぜひ読んでいただきたい作品だ。


著者:Mike Lightwood
ブロガー、翻訳家。『ぼくを燃やす炎(仮)』はネットを通して知り合った若者たちの体験を下敷きに書き上げた初めての小説作品。


New Spanish Books」について
スペインの新刊書籍を専門家が日本市場向けに選定し紹介する。2011年から始まり年に1回「おすすめ書籍」情報を更新する。2016年の選定は伊皿子りり子(サウザンブックス編集長) /笈入建志(往来堂書店) /鹿児島有里 (フリーランス編集者) /武田伊智朗(サンマーク出版) / 野谷文昭(名古屋大国語大学教授・東京大学名誉教授)(あいうえお順/敬称略) スペイン貿易投資庁(ICEX)、スペイン教育・文化・スポーツ省およびスペイン書籍出版連盟(FGEE)の共催プロジェクト。