暗くも美しいイメージが全編を貫く英国のダーク・ファンタジー3部作より、第1部『The Ghost Drum(ゴーストドラム)』を金原瑞人の改訳で
書名:ゴーストドラム
著:スーザン・プライス
訳:金原瑞人
刊行:2017年5月
ジャンル:フィクション(ファンタジー)
ISBN:978-4-909125-03-3

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続く第2部「ゴーストソング」、第3部「ゴーストドラム」についてはこちらをご覧ください。


著者:スーザン・プライス(Susan Price)
イギリスのブラック・カントリー工業地帯に生まれる。14歳のとき短編小説のコンクールで入賞して以来物語を書き続け、1987年『ゴースト・ドラム北の魔法の物語』でカーネギー賞、1999年にThe Sterkarm Handshakeでガーディアン子どもの本賞を受賞。翻訳刊行された作品に『エルフギフト 上・下』(ポプラ社)、『12の怖い昔話』、『500年の恋人』『500年のトンネル』(ともに東京創元社)など。

日本を代表する英米文学翻訳家・金原瑞人が、どうしても日本語訳を完結させたかった3部作が満を持して登場!



1991年に金原瑞人の訳で『ゴースト・ドラム 北の魔法の物語』として福武書店より刊行された、英国人作家スーザン・プライスによる「Ghost World」3部作シリーズの第1部『The Ghost Drum(ゴーストドラム)』が、同じ金原瑞人の改訳でサウザンブックスより蘇ります。


救いやキレイごとがない、予定調和を期待すると裏切られる物語


この物語は、金の鎖で木に繋がれた賢い黒猫によって語られる。一年の半分が雪で覆われる凍てつく北の国、高い塔に幽閉されて育った皇太子の名はサファという。皇子がいずれ自分を脅かす存在となるとの予言を信じた皇帝は、皇子を孕んだ后を 塔に閉じ込めてしまう。后は皇子を産み落とすと亡くなり、やがては乳母も処刑され、太陽や月の光も知らない皇子は、外への憧れを抱きながら孤独に成長する。

鶏の脚の生えた家で移動する、優秀な魔女のチンギスは、皇子の心の叫びに共鳴し、彼を塔から救い出す。聡明なチンギスは、人間の奴隷の子として生まれ、拾われた子として老婆に育てられたという宿命を背負っていた。

”魔法使いというものは、嘘をかぎわけることができる。それは美しい調べにまざった耳ざわりな音のようなものだ。(本文より)”


ゴーストドラムはイタチの頭蓋骨を中央に載せた太鼓。ゴーストドラムを打ち鳴らせば頭蓋骨が文字の上を踊り、魔女に啓示を与える。

”サファはまばたきもせずに、頭蓋骨が文字から文字へとはねたり、すべったりするのを見つめていた。そして頭蓋骨がはねるたびに、それがなにを意味しているのか考えたが、どれ一つ意味がわからない。(本文より)”

チンギスは果たしてサファを守り抜くことができるのか。


続く第2部と第3部はクラウドファンディングで


初の日本語訳となる、第2部『Ghost Song』と、第3部『Ghost Dance』につきましては、今後、クラウドファンディングを利用して皆さまからの事前予約を募らせていただく予定です。皆さまからのご支援は本の制作費の一部とさせていただきます。ご支援の総額が目標金額に達するかどうかによって、2部と3部の刊行が決定いたします。

つきましては、これを機に、まず第1部『Ghost Drum』をぜひ読んでいただければ幸いです。


翻訳家・金原瑞人が本書を推薦する理由
“『指輪物語』『ナルニア国物語』などの正統派ファンタジーにはない衝撃がある”


翻訳家・金原瑞人

いままでにずいぶんファンタジーやファンタスティックな作品を訳してきたが、強烈に印象に残っているのはジョナサン・ストラウドの『バーティミアス』、ニール・ゲイマンの『アメリカン・ゴッズ』、そしてこの『ゴーストドラム』だ。
作者、スーザン・プライスはこの作品で、一九八七年のカーネギー賞を受賞している。

この、雪と氷に閉ざされた世界で展開される凄絶な物語を読んだときの衝撃はいまでもよく覚えている。それまで『指輪物語』『ナルニア国物語』『ゲド戦記』『ウォターシップ・ダウンのウサギたち』といった、いかにもファンタジーらしいファンタジーにどっぷりつかってきた自分にとっては、いきなり熱湯を浴びせられたような気がした。『信ぜざる者コブナント』や『最後のユニコーン』といったある意味、異端的な厳しいファンタジーさえ、ぬるく感じさせる衝撃といってもいい。

この物語は、魔法使いの老婆が、生まれたばかりの女の子を弟子としてもらい受けにいくところから始まる。そして奴隷の身だった母親は、娘の将来を考えて、渡すことにする。老婆は赤ん坊にチンギスという名をつけ、魔法を教えていく。という、いかにもファンタジーらしい設定だが、物語はいきなり闇の世界に転がりこむ。
冷酷非情な皇帝、それに輪をかけて残酷な女帝、虫けらのように殺されていく人々、生まれたときから塔丸天井の部屋に閉じこめられたままの皇子サファ、サファや奴隷の兵士たちを助けようとして、死の中につき進んでいく若き魔法使いチンギス、チンギスを執拗につけねらう老練な魔法使いクズマ、これらの登場人物がさまざまな形でからみあい、もつれあいながらつむぎあげてゆく、血と死に彩られた、嫉妬と復讐と愛と生の物語。

ちなみに主人公のチンギスは物語半ばで、心臓を串刺しにされ、雪を真っ赤にそめる。いったい、物語はどこへいくのか。作者は思いもよらない方向へチンギスを、この物語を引きずっていく。
こんな凄絶な作品なのに、読後感はすがすがしく、ほのかに切ない。
今回、改訂するにあたり、かなり手を加えてみた。旧版を読んだかたもぜひ、再読してみてほしい。

さて、この作品、じつは三部作の第一部で、このあと『ゴーストソング』『ゴーストダンス』と続く。
『ゴーストソング』は『ゴースト・ドラム』よりも昔の物語で、チンギスの宿敵クズマが重要な人物として登場する。まず冒頭、クズマが自分の弟子となるべき運命を追って生まれた男の赤ん坊の親を訪ね、子どもを渡すように勧めるが、断られてしまう。この機会を二百年も待っていたクズマは怒って、その父親や村人たちに残虐な仕返しをたくらむ。まさに『ゴーストドラム』を反転させた物語だ。
 読者の期待をあっさり無視し、読者の予想を見事に裏切って、思いもよらない世界を築き上げるスーザン・プライスの「ゴースト」三部作、どれもが読者の想像力をとことん試すような荒々しいイメージが交錯する。死と滅亡と復活の寒々しく猛々しいファンタジーがここにある。

翻訳:金原瑞人(かねはら みずひと)
1954年岡山市生まれ。法政大学教授・翻訳家。児童書やヤングアダルトむけの作品のほか、一般書、ノンフィクションなど、今までに約500作品の翻訳を手がける。訳書に『豚の死なない日』『青空のむこう』『国のない男』『不思議を売る男』『バーティミアス』『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』『ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂』『さよならを待つふたりのために』など。エッセイに『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』『翻訳のさじかげん』など。日本の古典の翻案に『雨月物語』『仮名手本忠臣蔵』『怪談牡丹灯籠』。
(写真:根津千尋)