英国発ダーク・ファンタジー の傑作シリーズ、第一弾。開幕。
書名:ゴーストドラム
著:スーザン・プライス
訳:金原瑞人
刊行:2017年5月
ジャンル:フィクション(ファンタジー)
ISBN:978-4-909125-03-3

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第2部「ゴーストソング」
第3部「ゴーストダンス」

「昼も夜も、この部屋を見張れ。この子をこの部屋から一歩も外に出してはならん。死ぬまでな」
なぜ息子をひと思いに絞め殺してしまわなかったのか、その理由を知る者はひとりもいない。しかし皇帝の考えというものは、いつの世でも理解しがたいものだ。

著者:スーザン・プライス(Susan Price)
1955年、英国ウェスト・ミッドランズ生まれ。18歳で作家デビューし、1980年代に歴史ファンタジーで高く評価される。フォークロアをベースにした作風が特徴。1987年に『ゴーストドラム』(The Ghost Drum)でカーネギー賞、1999年に『500年のトンネル』(The Sterkarm Handshake)でガーディアン賞を受賞。主な作品に「ゴースト」三部作(The Ghost Drum, Ghost Song and Ghost Dance)、『エルフギフト(上・下)』(金原瑞人 訳)、『500年のトンネル(上・下)』(金原瑞人、中村浩美 共訳)、『500年の恋人』(A Sterkarm Kiss、金原瑞人、中村浩美 共訳)など。

日本を代表する英米文学翻訳家・金原瑞人が、どうしても日本語訳を完結させたかった3部作が満を持して登場!



1991年に金原瑞人の訳で『ゴースト・ドラム 北の魔法の物語』として福武書店より刊行された、英国人作家スーザン・プライスによる「Ghost World」3部作シリーズの第1部『The Ghost Drum(ゴーストドラム)』が、同じ金原瑞人の改訳でサウザンブックスより蘇りました。美しい限定BOXに入れたゴーストシリーズ3冊セットはサウザンブックスのECショップのみで販売しています。


魔法使いにだけわかる言葉を伝える不思議な太鼓、ゴーストドラム。ニワトリの脚を持つ家に住む、若い女魔法使いチンギスは、ある日ゴーストドラムを通して救いを求める叫びを聞きつけた。叫んでいたのは皇子サファ。生まれてこのかた、父皇帝によってずっと塔の小部屋に閉じこめられていた……。チンギスはサファを救い出せるのか。荒涼とした北の国を舞台にくり広げられる、荒々しい魔法の物語。
1987年、イギリス・カーネギー賞受賞作。

ゴーストシリーズ第二弾『ゴーストソング』
愛する息子は渡さない!
魔法使いに逆らった男の一言から始まる苛酷な運命の物語。

ゴーストシリーズ第三弾『ゴーストソング』
悪に立ち向かう見習い魔法使いは、世界と自分を救えるのか?
鮮烈で苛酷な闘いの物語、ついに完結。


翻訳家・金原瑞人が本書を推薦する理由
“『指輪物語』『ナルニア国物語』などの正統派ファンタジーにはない衝撃がある”


翻訳家・金原瑞人

いままでにずいぶんファンタジーやファンタスティックな作品を訳してきたが、強烈に印象に残っているのはジョナサン・ストラウドの『バーティミアス』、ニール・ゲイマンの『アメリカン・ゴッズ』、そしてこの『ゴーストドラム』だ。
作者、スーザン・プライスはこの作品で、一九八七年のカーネギー賞を受賞している。

この、雪と氷に閉ざされた世界で展開される凄絶な物語を読んだときの衝撃はいまでもよく覚えている。それまで『指輪物語』『ナルニア国物語』『ゲド戦記』『ウォターシップ・ダウンのウサギたち』といった、いかにもファンタジーらしいファンタジーにどっぷりつかってきた自分にとっては、いきなり熱湯を浴びせられたような気がした。『信ぜざる者コブナント』や『最後のユニコーン』といったある意味、異端的な厳しいファンタジーさえ、ぬるく感じさせる衝撃といってもいい。

この物語は、魔法使いの老婆が、生まれたばかりの女の子を弟子としてもらい受けにいくところから始まる。そして奴隷の身だった母親は、娘の将来を考えて、渡すことにする。老婆は赤ん坊にチンギスという名をつけ、魔法を教えていく。という、いかにもファンタジーらしい設定だが、物語はいきなり闇の世界に転がりこむ。
冷酷非情な皇帝、それに輪をかけて残酷な女帝、虫けらのように殺されていく人々、生まれたときから塔丸天井の部屋に閉じこめられたままの皇子サファ、サファや奴隷の兵士たちを助けようとして、死の中につき進んでいく若き魔法使いチンギス、チンギスを執拗につけねらう老練な魔法使いクズマ、これらの登場人物がさまざまな形でからみあい、もつれあいながらつむぎあげてゆく、血と死に彩られた、嫉妬と復讐と愛と生の物語。

ちなみに主人公のチンギスは物語半ばで、心臓を串刺しにされ、雪を真っ赤にそめる。いったい、物語はどこへいくのか。作者は思いもよらない方向へチンギスを、この物語を引きずっていく。
こんな凄絶な作品なのに、読後感はすがすがしく、ほのかに切ない。
今回、改訂するにあたり、かなり手を加えてみた。旧版を読んだかたもぜひ、再読してみてほしい。

さて、この作品、じつは三部作の第一部で、このあと『ゴーストソング』『ゴーストダンス』と続く。
『ゴーストソング』は『ゴーストドラム』よりも昔の物語で、チンギスの宿敵クズマが重要な人物として登場する。まず冒頭、クズマが自分の弟子となるべき運命を追って生まれた男の赤ん坊の親を訪ね、子どもを渡すように勧めるが、断られてしまう。この機会を二百年も待っていたクズマは怒って、その父親や村人たちに残虐な仕返しをたくらむ。まさに『ゴーストドラム』を反転させた物語だ。
 読者の期待をあっさり無視し、読者の予想を見事に裏切って、思いもよらない世界を築き上げるスーザン・プライスの「ゴースト」三部作、どれもが読者の想像力をとことん試すような荒々しいイメージが交錯する。死と滅亡と復活の寒々しく猛々しいファンタジーがここにある。

翻訳:金原瑞人(かねはら みずひと)
1954年生まれ。翻訳家、法政大学社会学部教授。フィクション、ノンフィクション、児童書など、多ジャンルにわたって翻訳を手がけ、特に海外のYA(ヤングアダルト)作品を精力的に翻訳し、日本に紹介。訳書は550点以上。主な訳書に『武器よさらば』(ヘミングウェイ)、『青空のむこう』(シアラー)、『月と六ペンス』(モーム)、『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる/ハプワース16、1924年』(サリンジャー)、『リズムがみえる』(アイガス)など。エッセイ集に『サリンジャーに、マティーニを教わった』『翻訳家じゃなくてカレー屋になるはずだった』など。日本の古典の翻案に『雨月物語』『仮名手本忠臣蔵』『怪談牡丹灯籠』など。ブックガイドに、『10代のためのYAブックガイド150!』、『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』、『翻訳者による海外文学ブックガイドBOOKMARK』など。
(写真:根津千尋)