繊細なグラフィックが紡ぐ
内戦下に生きる少女の孤独と悲劇
ゼノビアは2016年11月デンマークで出版されて以来、アメリカ、ヨーロッパ、韓国など世界15カ国の国々で翻訳されています。本国デンマークではベストコミック ブック オブ ザ イヤー、ベスト コミックブック フォア チルドレン アンド ヤングアダルト、イラストレータープライズ、など数々の賞を受賞した良書です。
公共放送のデンマークラジオは「現代の戦争を理解するための出発点として、子供だけでなく大人にもこの本を読んでもらいたい」と報じ、デンマーク文芸誌アトラスは「ゼノビアは子供が読む大人の本であり、大人が読む子どもの本でもある。この本が教えてくれるように、違法な人間などこの世に1人もいない」と評しました。
あらすじ
小さな村の少女アミナのもとにもシリア内戦の影は刻々と近づきつつあった。戦火を逃れるためアミナはボートで国を脱出しようと試みるが、荒波に襲われ船は転覆してしまう。
暗く深い海の中、アミナは村での出来事を思い出すーお母さんとかくれんぼで遊んだこと、ドルマというぶどうの葉っぱでつくる料理を一緒に作ったこと。おじさんと船に乗り込むまでの旅路。そしてシリアの女王ゼノビアのこと。強い意思をもつゼノビアは当時の帝国ローマにも屈しなかった。アミナがくじけそうになった時、お母さんは よく「ゼノビア」のように強くなりなさい」と元気付けてくれたのだ。。。
子どもの目線で描かれた不条理な現実。 繊細なイラストと言葉で紡がれたこの本のメッセージは、国境を超え、あらゆる世代の心に 戦争の意味を投げかけています。
著者のモーテン・デュアーからビデオメッセージ
VIDEO
一人の人間として、母として、未来に責任を持つものとして、この物語をたくさんの方々に読んでほしい。
発起人 荒木美弥子より
絵本を作っているんだよー。北欧デンマーク出身の友人、モーテン・デュアーがそう教えてくれたのは2年前、偶然フェイスブックで再会した時のこと。イギリス留学時代に知り合った物静かなこの友人と最後にコンタクトを取って以来、20年以上の歳月がたっていました。
北欧といえば アンデルセン、リンドグレーン、トーベ・ヤンソンをはじめ、多くの優れた作家が生まれたことで知られています。とりわけ日本での人気は高く、私自身も小さいころから北欧の児童文学に慣れ親しんでいました。
「どんな絵本なの?見せてほしい!」
懇願した私に彼が最新作として真っ先に差し出したのがこの『ZENOBIA(ゼノビア)』でした。
絵本ともグラフィックノベルともとれる作風のその本は、イメージしていた世界とは全く違っていました。なぜならそれは 北欧から遠く離れた、内戦に苦しむシリアの物語だったからです。
けれど、ページを進むにつれ、最初に持った意外な印象はすっかり消えてしまい、内面に潜む静かなパワーに次第に惹きつけられていきました。ミニマルな言葉と洗練されたラース・ホーネマンのイラストで綴られたストーリー。そこには、決して声高に叫ばずとも強く心に響く、確固たるメッセージがありました。一読者の主観かもしれませんが、そこに「北欧作家的なスピリット」を感じたのです。
同時に、一人の人間として、母として、未来に責任を持つものとして、この物語をたくさんの方々に読んでほしいと思いました。
あたりまえの暮らしを送ることが どれほど貴重なことなのかは、
あたりまえの暮らしがなくなったときに初めてわかる。
でもその時には全てが遅すぎるのかもしれない。
平和な社会に生まれたからこそ必要な、「気づき」の大切さをこの本は優しく教えてくれます。
『ZENOBIA(ゼノビア)』は世界15カ国で翻訳され、各国で高い評価を得ています。しかし海外文学の出版点数が減少している日本では、通常のしくみではなかなか紹介することができません。ゼノビアだけでなく、世界にはこんな良書がたくさんあるのに、大変残念なことです。
『ZENOBIA(ゼノビア)』は、一編の詩のような、一曲の歌のような、一冊の画集のような、繰り返し繰り返し手にとりたくなる作品です。ぜひみなさんもお手元にとって、リアルと幻想の狭間に作り出された独特な世界を堪能いただきたいと願っています。
本書は翻訳費の一部をDanish Arts Foundationからの助成を受けて制作しています。