丁寧に編まれた「妊活」当事者たちの声が、改めて家族とは何かを問いかける
書名:The Art of Waiting
著:Belle Boggs
発行国:アメリカ
発行年:2016年
ジャンル:実用
ISBN:978-1555977498
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不妊治療、養子縁組、LGBTカップル、こどもをもたない
こどもをめぐるあらゆる決断を応援する

 本書は、著者ボグズをはじめとする、さまざまな人々の 「子供を​迎えるまでの物語」​ を描いたノンフィクションエッセイです。

小説家である著者が妊活を始めてから、体外受精による妊娠・出産にいたるまでの5年間に経験した個人の物語、そして、不妊治療や養子縁組について調べる中で、著者が出会ったさまざまな人々の出産や養子を迎えるまでの話が丁寧に綴られています。
この本に登場する人工授精、体外受精、里親、特別養子縁組で子供を迎えた人々や、子供をもたないことを選んだ人々の中には、ヘテロセクシュアルも、LGBTQ+コミュニティの人間も、カップルも、またはシングルペアレントもいます。同性婚の法制化が依然として待たれる日本においても、同性婚がもたらすであろうLGBTQ+カップルの家族のもち方の選択肢について、パートナー間、そして社会全体でも、あらためて考えるきっかけをくれるケーススタディが描かれています。また、経済的状況や、住まう地域、人種、信仰の違いによる、不妊治療へのアクセスに格差がある米国内の不妊治療や、近年日本でもあらためて問題になった優生保護法の傷跡についても描かれています。

また、不妊であることに対する「偏見」、そしてそこから来る「劣等感」に「打ち明けにくさ」という個人の悩みの根本の部分については、子どもがいない人々の静かな悩みや、もたないことを選んだ人々と社会との関わり方を、文学や医療、そして文化や宗教の歴史の中で、どのように扱われてきたかなどが記されています。

この本は、子供を望むあらゆる人々に、
「あなたは一人じゃない」
「あなたにも選択肢があるよ」
と呼びかける、静かで確かな希望に満ちた本です。

〈ベスト・ブックス・オブ・ジ・イヤー選出メディア一覧〉
 ・Kirkus
 ・Publisher Weekly
 ・Buzzfeed
 ・the Globe and Mail
 ・the Oprah Magazine



妊娠や出産。「悩んでいるのはあなた一人ではない」と伝えたい

発起人 石渡 悠起子より

 私がこの本に初めて出会ったのは、ちょうど32歳で結婚したての頃でした。当時、フリーランスになりたてだった私が妊娠するのを先延ばしにしていた一番の理由は、経済的な理由でしたが、実際には出産願望はまだ特になく仕事を優先したいという気持ちも強くありました。そんな事情を知らない周りから、「早く子供を作った方が良い」と悪気ない声を掛けられるたびに、責められているような苦しい気持ちを感じながらも、ごく一部の親しい人以外には自分の考えを打ち明けることはありませんでした。
そんな中で、著者ボグス自身が自分の葛藤や焦りを淡々とだけれど真っ直ぐ描きながら、様々な人々の体験を丁寧に掘り下げていくこの本を読みすすめていくうちに、親しい友人とすら話題にしにくい妊娠・出産についての考えを、自分なりに色々な選択肢を考えるようになり、いつかこの本を訳せたらなと漠然と思うようになりました。

そんな中、2018年、とある政党の議員が子供を産む能力の有無を「生産性」という言葉で語るのを見て、非常にショックをうけたことをきっかけとして、再びこちらの本の日本語出版に向けて動きだしました。 自分とは異なる人々を「ないことにする」人々を責めるだけではなく、彼らに正しく知ってもらうためのきっかけを翻訳者の私が作れるとしたらこれだ! と思いました。

2015年の国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」によると、結婚10-14年目の夫婦の21%以上、つまり5組に1組が不妊治療を受けたと発表しています。不妊治療についての説明する本や妊活に関する本は日本でも出版されていますが、当事者の声を記した本は圧倒的に少ないのが現状です。

この問題を、オープンにすこやかに当事者も社会も議論できるようになるためには、「悩んでいるのは自分だけでない」「何もおかしいことではない」とくり返し読者に伝えてくれる個人の体験が非常に重要だと思います。

そして、「悩んでいるのはあなた一人ではない」というメッセージを淡々と伝え続けていくために。この本を日本の読者の皆さんに届けられることを心より願っています。

石渡 悠起子 (いしわた ゆきこ)
1984年生まれ。神奈川県横須賀市出身。
企業翻訳者/歌手/詩人。NY市立大学クイーンズカレッジ音楽学部卒業。大学卒業後、4年間にわたるNYでの音楽活動を経て、2012年に日本に帰国。英会話講師や社内翻訳者を経て、現在はフリーランスとして実務翻訳の提供と、詩と音楽の創作活動を行っている。
Twitter:石渡悠起子@yuki_ishiwata