秘宝発掘のトンネルの先に見える!?
イスラエルとパレスチナの融和のほのかな光
イスラエル発のグラフィックノベル
原著の情報
書名:מנהרות (Tunnels)
著者:רותו מודן (Rutu Modan)
発行国:イスラエル
発行年:2020年
ジャンル:外国文学/グラフィックノベル
ISBN:0-001005-407191
  • クラウドファンディング準備中!
    プロジェクト開始のお知らせをご希望の方は下記よりメールアドレスをご登録ください。
  • はじめての方へ


著:רותו מודן Rutu Modan(ルトゥ・モダン)
ルトゥ・モダン(Rutu Modan  רותו מודן)は、1966年イスラエル、テルアビブ生まれ。ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーを卒業。イスラエルや欧米の著名な雑誌や新聞にイラストやマンガを掲載する他、絵本やグラフィックノベルも出版する。2008年に『Exit Wounds(エグジット・ウンズ)』が、2013年には『Property(プロパティ)』が、アメリカで権威のあるウィル・アイズナー賞を受賞。彼女の作品は、世界で15か国語に翻訳・出版されている。ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーで教鞭も取る。
(写真:Hanan Assor)

地上では対立の続く2つの民族
地下では秘宝を探しに手を差し伸べあえるのか !?

 主人公ニリは子供の頃、神童と呼ばれるほど物事を覚えるのが早い子供であった。考古学者であった父親の発掘を手伝いながら、神がモーゼに与えたという十の戒律が刻まれた石板が入った「契約の箱」のありかを示す碑文の読み方を覚えてしまったのだ。親子二人で幻の「契約の箱」を探し続けていたが、パレスチナでは民衆蜂起(インティファーダ)が起きてしまい一旦は発掘を断念。しかし、諦めきれない二人は、いずれ治安が落ち着いたら…と願ったのであった。その後 、父親は認知症を患い、親子で「契約の箱」の発掘をするという夢はさらに遠ざかってしまい…。

   大人になったニリは考古学者になることもなく、今はシングルマザーとして子育てをしている。一方、認知症が進んだ父親は、フィリピン人の介護士のサポートを受けながら生活をする。そんなある日、ニリはひょんなことから、馴染みの骨董品コレクターのアブロフが、コレクションの全てを、父親の元部下ラフィの大学に引き渡すことを知った。その中には、親子で読んでいたあの碑文も!!! ニリはラフィより先に「契約の箱」を見つけ、父親の名誉を取り戻そうと奮闘する。

   ニリと息子が「契約の箱」の発掘をする場所は、第三次中東戦争(1967年)以来、イスラエルが占領する被占領パレスチナのヨルダン川西岸地区。そこには、ニリの弟で考古学者のブロッシや父親の元部下ラフィ、ユダヤ系入植者グループ、パレスチナ人兄弟などが、ニリ同様に秘宝「契約の箱」の発掘を目指し、時に出し抜き合い、時に手を貸し合う。現実の世界では出会うことのないユダヤ人とパレスチナ人の融和の可能性を描いた渾身の一作!












・イスラエル・コミックについて
 イスラエルにもマンガはあるが、現在、日本語の翻訳はエトガー・ケレット作、アサフ・ハヌカ作画の「ピッツェリア・カミカゼ」の一冊だけである。マンガのスタイルは、ヨーロッパやアメリカの移民が持ち込んだと言われ、バンデシネやグラフィックノベルと同様、多様性に溢れている。基本、マンガはカラーで、今回の「トンネル」はペールトーンを上手に使い、色彩豊かに仕上がっている。


難しいと遠ざけられてきたイスラエル・パレスチナ問題を社会の多様性に着目しながらリアルに描いた貴重な作品!
イスラエル・コミックの最前線を日本の読者の皆様にも知っていただきたい!

発起人:バヴア(井川アティアス翔、戸澤典子)より

 皆さん、はじめまして。 グラフィック・ノベル制作ユニット「バヴア」です。メンバーは日本生まれ、アメリカ育ちの井川アティアス翔と、日本生まれ、日本育ちの戸澤典子の二人です。バヴア(Bavuah בָּבוּאָה)とはべブライ語で「反射・反映」の意味ですが、この言葉には、私たちの作品作りへの想いが込められています。この想いは、活動の拠点としているイスラエル社会と切ってもきれません。

 まず、イスラエルに暮らす「ユダヤ人」と聞くと、どのようなイメージを持っていらっしゃいますか? おそらく、第二次世界大戦中に起こってしまったホロコーストから「ヨーロッパ人」を、また「アンネの日記」のアンネ・フランクをイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし実際には、アラブ・北アフリカ系(モロッコ、アルジェリア、エジプト、イラクなど)、ロシア系、東欧系、欧米系、南米系、エチオピア系、アジア系などの世界中のユダヤ人とイスラエル建国前からパレスチナの地に暮らしていたパレスチナ人(被占領パレスチナや一部はイスラエル国籍のパレスチナ人としてイスラエルで暮らす)が、日本の四国ほどの国に暮らしています。街を歩く人々を見ても、肌の色から目の色、話している言語も、「ユダヤ人」と一言で括ることが難しいほど多種多様です。このようなユダヤ人が多数を占めるイスラエル社会を「誰の視点」から語るのか。これは大きな問題です。例えば、ユダヤ人の「視点」なのか、パレスチナ人の「視点」なのか。ユダヤ人でも、どの地域の出身者なのか。だからこそバヴアは、イスラエルに暮らすさまざまな人々の日常に関心を持ち、インタビューを通して物語を制作してきました。作品作りは、バヴアが物語を担当し、イラストはイスラエル人アーティストが描いています。「バヴア」とは、このような私たちの作品作りへの想いを言い当てる言葉なのです。

 ではなぜ今回、グラフィックノベルを制作しているバヴアが、ルトゥ・モダンの最新作『Tunnels (トンネル)』の翻訳出版をしたいのか。理由は2つあります。まず、我々が描こうとしていたパレスチナ人も含めた社会の多様性を、『Tunnels(トンネル)』が豊かに描いているところです。現実世界では繋がることが難しいユダヤ人とパレスチナ人を、ルトゥは、三作目にして秘宝の発掘で繋げました。それも政治的決着がなかなかつけられない被占領パレスチナで!!! 2つ目は、中東地域の紛争の核と言われているイスラエル・パレスチナ問題をマンガで描いている点です。ジョー・サッコも『パレスチナ』(小野耕世訳、いそっぷ社)で被占領パレスチナの状況を克明に描いていますが、イスラエルとパレスチナの融和を示唆することはありませんでした。一方、ルトゥの作品はイスラエル社会、イスラエルとパレスチナの状況をリアルに描きながら、発掘するトンネルの先にほのかな融和の可能性を示唆しているのです。

 一見、『Tunnels(トンネル)』の物語はイスラエル・パレスチナに限定されたものに見えるかもしれません。しかし現在も続くロシア・ウクライナ戦争に目を向けてみれば、イスラエル・パレスチナがしばしば語られがちな白・黒、敵・味方といった二項対立する世界観を見ることができます。その意味で、ルトゥ・モダンのテーマは私たちに普遍的な人間の繋がり方の可能性を示しています。このようなルトゥ・モダンの豊かな創造の世界を、ぜひ日本語で皆様にご紹介したく、クラウドファンディングへのご協力、どうぞよろしくお願いいたします。


〈サウザンコミックスについて〉 サウザンコミックスは、世界のマンガを翻訳出版するサウザンブックス社のレーベル。北米のコミックス、フランス語圏のバンド・デシネを始め、アジア、アフリカ、南米、ヨーロッパ……と世界には魅力的なマンガがまだまだたくさんあります。このレーベルでは世界の豊かなマンガをどんどん出版していきます。

バヴア
バヴアは、井川アティアス翔と戸澤典子が2017年にイスラエル・テルアビブをベースに活動を始めたグラフィックノベル制作ユニットです。井川はアメリカのイースタン・メノナイト大学で紛争解決の修士課程を修了し、現在は南テルアビブの公立高校で英語を教えています。戸澤は東京大学大学院総合文化研究科博士課程後期に在籍し、移民の研究を行っています。それぞれ社会学の知識を生かしながら、イスラエル・パレスチナの様々な人びとのストーリーに耳を傾け、マンガ作りに励んでいます。2021年には花伝社より『誰も知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』を出版し、それまで制作してきた4つの作品とエッセイを発表しました。2022年から、イスラエルの情報ウェッブサイト「ISRAERUウェブマガジン」でイスラエルの人々を描いた小作品を連載しています。現在、バヴアはオリジナル作品としてイスラエルに移住した日本人女性の物語も制作中です。