暗く先の見えないトンネルのような
イスラエルとパレスチナの関係を描いた
イスラエル発のグラフィックノベル
書名:トンネル
作:ルトゥ・モダン
訳:バヴア
発行年:2024年7月
仕様:B5変形版/並製本/280ページ/4色
ジャンル:外国文学/グラフィックノベル
ISBN:978-4-909125-52-1

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著:ルトゥ・モダン(Rutu Modan)
1966年イスラエル、テルアビブ生まれ。ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーを卒業。イスラエルや欧米の著名な雑誌や新聞にイラストやマンガを掲載する他、絵本やグラフィックノベルも出版する。2008年に『Exit Wounds(エグジット・ウンズ)』が、2013年には『Property(プロパティ)』が、アメリカで権威のあるウィル・アイズナー賞を受賞。今回の『トンネル』は2022年にアングレーム国際漫画祭公式セレクションにノミネート。彼女の作品は、世界で15か国語に翻訳・出版されている。ベッツァレール・アート・デザイン・アカデミーで教鞭も取る。
(写真:Hanan Assor)

イスラエルとパレスチナの地下トンネルで鉢合わせた2つの民族
失われた契約の箱を求めて

 主人公ニリは、幼い頃、考古学者の父親を手伝い、幻の「契約の箱」探しに従事したが、民衆蜂起(インティファーダ)が勃発し、世紀の発見をする機会を逃してしまった。

   それから長い年月が経ったある日、ひょんなことから、かつて父が所有していた「契約の箱」のありかを示す石板が、父のライバルである大学教授のラフィに売りに出されることが判明する。ニリはラフィより先に「契約の箱」を見つけ、父が実現できなかった「契約の箱」発掘をなしとげようと決意するが——。

   長い受難の歴史の上に成り立ち、今なお紛争の舞台となっているイスラエル・パレスチナの地下に輻輳するいくつものトンネルをめぐる冒険譚。両民族の対立の奥底に存在するつながりを示唆するイスラエルを代表する漫画作家ルトゥ・モダンのグラフィックノベル本邦初邦訳。












・イスラエル・コミックについて
 イスラエルにもマンガはあるが、現在、日本語の翻訳はエトガー・ケレット作、アサフ・ハヌカ作画の「ピッツェリア・カミカゼ」の一冊だけである。マンガのスタイルは、ヨーロッパやアメリカの移民が持ち込んだと言われ、バンデシネやグラフィックノベルと同様、多様性に溢れている。基本、マンガはカラーで、今回の「トンネル」はペールトーンを上手に使い、色彩豊かに仕上がっている。


難しいと遠ざけられてきたイスラエル・パレスチナ問題を社会の多様性に着目しながらリアルに描いた貴重な作品!
イスラエル・コミックの最前線を日本の読者の皆様にも知っていただきたい!

発起人・翻訳:バヴア(井川アティアス翔、戸澤典子)より

 皆さん、はじめまして。 グラフィック・ノベル制作ユニット「バヴア」です。メンバーは日本生まれ、アメリカ育ちの井川アティアス翔と、日本生まれ、日本育ちの戸澤典子の二人です。バヴア(Bavuah בָּבוּאָה)とはべブライ語で「反射・反映」の意味ですが、この言葉には、私たちの作品作りへの想いが込められています。この想いは、活動の拠点としているイスラエル社会と切ってもきれません。

 まず、イスラエルに暮らす「ユダヤ人」と聞くと、どのようなイメージを持っていらっしゃいますか? おそらく、第二次世界大戦中に起こってしまったホロコーストから「ヨーロッパ人」を、また「アンネの日記」のアンネ・フランクをイメージする方も多いのではないでしょうか。しかし実際には、アラブ・北アフリカ系(モロッコ、アルジェリア、エジプト、イラクなど)、ロシア系、東欧系、欧米系、南米系、エチオピア系、アジア系などの世界中のユダヤ人とイスラエル建国前からパレスチナの地に暮らしていたパレスチナ人(被占領パレスチナや一部はイスラエル国籍のパレスチナ人としてイスラエルで暮らす)が、日本の四国ほどの国に暮らしています。街を歩く人々を見ても、肌の色から目の色、話している言語も、「ユダヤ人」と一言で括ることが難しいほど多種多様です。このようなユダヤ人が多数を占めるイスラエル社会を「誰の視点」から語るのか。これは大きな問題です。例えば、ユダヤ人の「視点」なのか、パレスチナ人の「視点」なのか。ユダヤ人でも、どの地域の出身者なのか。だからこそバヴアは、イスラエルに暮らすさまざまな人々の日常に関心を持ち、インタビューを通して物語を制作してきました。作品作りは、バヴアが物語を担当し、イラストはイスラエル人アーティストが描いています。「バヴア」とは、このような私たちの作品作りへの想いを言い当てる言葉なのです。

 ではなぜ今回、グラフィックノベルを制作しているバヴアが、ルトゥ・モダンの最新作『Tunnels (トンネル)』の翻訳出版をしたいのか。理由は2つあります。まず、我々が描こうとしていたパレスチナ人も含めた社会の多様性を、『Tunnels(トンネル)』が豊かに描いているところです。現実世界では繋がることが難しいユダヤ人とパレスチナ人を、ルトゥは、三作目にして秘宝の発掘で繋げました。それも政治的決着がなかなかつけられない被占領パレスチナで!!! 2つ目は、中東地域の紛争の核と言われているイスラエル・パレスチナ問題をマンガで描いている点です。ジョー・サッコも『パレスチナ』(小野耕世訳、いそっぷ社)で被占領パレスチナの状況を克明に描いていますが、イスラエルとパレスチナの融和を示唆することはありませんでした。一方、ルトゥの作品はイスラエル社会、イスラエルとパレスチナの状況をリアルに描きながら、発掘するトンネルの先にほのかな融和の可能性を示唆しているのです。

 一見、『Tunnels(トンネル)』の物語はイスラエル・パレスチナに限定されたものに見えるかもしれません。しかし現在も続くロシア・ウクライナ戦争に目を向けてみれば、イスラエル・パレスチナがしばしば語られがちな白・黒、敵・味方といった二項対立する世界観を見ることができます。その意味で、ルトゥ・モダンのテーマは私たちに普遍的な人間の繋がり方の可能性を示しています。このようなルトゥ・モダンの豊かな創造の世界を、ぜひ日本語で皆様にご紹介したく、クラウドファンディングへのご協力、どうぞよろしくお願いいたします。


〈サウザンコミックスについて〉 サウザンコミックスは、世界のマンガを翻訳出版するサウザンブックス社のレーベル。北米のコミックス、フランス語圏のバンド・デシネを始め、アジア、アフリカ、南米、ヨーロッパ……と世界には魅力的なマンガがまだまだたくさんあります。このレーベルでは世界の豊かなマンガをどんどん出版していきます。

発起人・翻訳:バヴア
井川アティアス翔と戸澤典子がイスラエル・テルアビブをベースに活動するグラフィックノベル制作ユニット。井川はアメリカのイースタン・メノナイト大学で紛争解決の修士課程を修了、現在はイスラエルの公立高校で英語を教えている。戸澤は東京大学大学院総合文化研究科博士課程に在籍、移民の研究を行っている。著書に『誰も知らないイスラエル:「究極の移民国家」を生きる』(花伝社)がある。「ISRAERUウェブマガジン」に「グラフィックノベルで綴るイスラエル」という連載を掲載。現在、日本にルーツを持つ移民の物語を製作中。