著者:PAVO(パボ)
児童保護の専門職であるエデュケーターとして17年働いたのち漫画作家となる。
施設でエデュケーターをしていたときは施設にいる若者たちと絵を描き「自分たちの日常を描こう、でも面白くね!」というアトリエは若者たちに大人気だった。怒りも、激怒だってポジティブな形で表現する方法を見つけることができる、拒否されないで褒められるようなものに変えることができると伝えた。
その後在宅教育支援の現場に移る。それは子どもたちが難しい家庭状況の中で暮らすことを支える仕事。暴力やアルコールなどの家庭内の問題がある中で育つ子どもとの仕事についての絵をある日Facebookに投稿したら、その日のうちに700人がフォローした。子どもに関わる仕事に就く人にとって、何かのフリは通用しない、取ってつけた対応は通らない、その微妙なスタンスが響いた。今では4万人のフォロワーを誇る。
PAVOは2018年にバーンアウトする。「子どもたちのことなんてどうでもいいと思っている政治、とことん何もわかっていない偉い人たち、僕の心は折れた」と言う。そこでPAVOは社会福祉専門週刊誌ASHにターラの連載を開始する。今では学会や業界の人の集まりにひっぱりだこで、議論の内容を即席で描き参加者を笑わせている。
お母さんと暮らしたい!
困難を抱える親と子どもを支援する
家に帰る条件は「在宅教育支援(※1)を受けること」。施設育ちのターラは家で暮らすことを夢見ている8才の女の子。本書は精神疾患のある母のもとで成長していこうとするターラと不器用なエデュケーター(※2)を描いたマンガ。ターラはパリ近郊に住み、パリの名所を歩いたりしながらエデュケーターに会ったことのない父について疑問をぶつけたりし、あまり頼りにできない母のもとで自分を築いていこうとする。
『ターラの夢見た家族生活』は、精神疾患を抱えるお母さん、8歳の女の子ターラと在宅教育支援エデュケーターについて描いた物語。教育関係者や保育、子どもに接する職業に就く人たちの間でヒットし、現在では中高生のファンも多い。「親も大変なんだな」「でもこうやってリカバリーしていく方法があるよね」「信頼できる大人との出会いは子どもにとって大きいよね」と幅広く楽しまれている。
実際、家庭でどのような支援がされているのか? 土木作業員、高校歴史教師をしたのちに、17年間家族を支援したエデュケーターが描く、フランスの子育て支援者の動き、言葉遣い、距離感、ねじれた環境でも逞しく育つ子どもたちの姿。
エデュケーターのPAVOは全然万能ではないけれど、一緒にいるとみじめな気持ちにならないし、なにより落ち込まない。PAVOは大人なのに少し繊細で自信がない。著者であるPAVOが実際17年間エデュケーターとして働いた思い出が作品につまっている。
※1 在宅教育支援:心配な状況で、支援が必要であると判断された子どもに対し、月5時間〜毎日1時間エデュケーターが一緒に過ごし、教育的支援をおこなう。毎年未成年人口の約1%が利用。平均約1年半で家庭内の状況が改善し終了していて、保健省は状況が悪化し施設措置になることに比べたら9000分の1のコストで済むと報告している。
※2 エデュケーター:フランスの国家資格で、児童保護分野で中心的役割を担う資格。1年目に児童保護、2年目に障害、3年目に社会的精神的困難を抱えた成人の自立支援を学び、看護師のように機関や役職に関わらずエデュケーターとしてキャリアを積む。若者たちはよく「彼は私のエデュックだよ!」という言い方をして、運がいいと親戚のおじさんみたい、社会的親ともいえるエデュケーターに出会えることも。
子育て経験をよりよい良いものにするために
発起人:安發明子(あわ・あきこ)より
2011年に渡仏、フランスの施設で暮らす子どもたちのもとに通い彼らの施設に来るまでの暮らし、家族、学校、地域、福祉について話を聞いていたときに子どもたちに教えてもらったのが「在宅教育支援」。「エデュケーターが家に来て親と話したり一緒にご飯食べたり、一緒に週末出かけたり親も一緒に旅行に連れて行ってくれたり」.. おもしろそう..!! ということで、在宅教育支援の現場で度々研修生をして日本にその仕事内容を伝えています。
自分の幼少期、思春期を思い返しても、家の中で起きていること、親との関係、学校のこと、将来への不安、家族のことをよく知っていて話を聞いてくれる大人がいたら、親子喧嘩になるようなことを間に入ってくれたら、こじらせずに済んだことがどれだけあっただろう。どれだけ安心して成長し大人になることを前向きに描けただろう。熱くて優しいエデュケーターたちとメキメキたくましく育ち羽ばたいていく子どもたちに夢をもらっています。
「在宅教育支援」のエデュケーターの仕事の魅力に夢中になったものの、講演や学会で口頭で「こういうことをしたら家族がこう変わったんだよ!」と発表しても文章で書いても、やはり、百聞は一見にしかず。この素晴らしい仕事を多くの人に知ってほしい、けれど行為や関係性を伝える難しさに悩んでいた矢先に出会ったのがこの漫画でした。日本では子育て支援として「在宅支援」を今後強化していくという方針は発表されていますが、どのような形が望まれているかまだ手探りなのが現状です。
合計特殊出生率は日本が1.33人なのに対しフランスは1.88とOECDでもトップ、少子化対策をしたわけではなく家族政策を充実させ家族を支えることに取り組んできました。日本の小中高生の自殺は2020年499人であるのに対しフランスは18人。フランスの子どもが苦労していないわけではないけれど、エデュケーターたちの「子育て経験を親子双方にとって良いものにする」「大事なのはどれだけ仕事をしたかではない、今その子どもが調子がいいかどうか」といった熱い仕事があります。
パリ市のエデュケーターは言います「子どもを守れば守るほど、将来、行動障害や精神的な医療が必要、住居や社会保障のお金が必要な大人を減らすことができる。教育を受けられケアされた子どもはケアを受けられなかったときより、よい社会の未来を作ることができる」。ではどのようにケアをしているのか? 漫画で楽しんでいただきたいです!
発起人・翻訳:安發明子(あわ・あきこ)
1981年鹿児島生まれ。2005年一橋大学社会学部卒、2018年フランス国立社会科学高等研究院健康社会政策学修士、2019年フランス国立社会科学高等研究院社会学修士
2007年『親なき子 – 北海道家庭学校ルポ』 (ペンネーム島津あき) 金曜日社
2022年「フランスにおける子ども家庭福祉と文化政策」『「健康で文化的な生活」をすべての人に』河合克義、浜岡政好、唐鎌直義監修、自治体研究社
首都圏で生活保護担当として働きバーンアウト。生活保護家庭の子どもたちの暮らしが生活保護によって必ずしも良くなっていかないことに絶望する。重いうつ病で20代で死んでいたかもしれないため、その後の人生はオマケだと思い、やり残したことを全てその年のうちにしようというスタンスで毎年生きのびている。2007年に日本とスイスの施設で暮らす子どものライフヒストリーを書いた本『親なき子』を出版、同じような状況で施設に来ても制度が違えば世界観も未来の展望も違うことを書いた。つまり、制度とサポートがあれば「親ガチャ」は減らせる、実際には「国ガチャ」が起きている。
日本で生まれる子どもが幸せな大人になれるようにできることは全部したい、その気持ちの1つがこの漫画の日本への紹介です。
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