本を売るだけが「書店」ではない
個性豊かな台湾の独立書店主43人のドキュメンタリー
書名:書店本事 台湾書店主43のストーリー
文:郭怡青(グオ・イーチン)
絵:欣蒂小姐(ミス・シンディ)
訳:小島あつ子、黒木夏兒
発行:台湾
発行年:2019年
仕様:並製本/444ページ ジャンル:ノンフィクション
ISBN:978-4-909125-12-5

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黄色い看板には「全国最安値の書店」とある。財布のヒモが固い本好きたちの間では、師大商圏の水準書局(シュイヂュンシューヂュイ)ならば新刊本を高くても定価の三割引きで買えることは常識だ。

店を訪れたことのある人なら、店主の曾大福(ヅォンダーフー)さんが本を「熱烈におススメ」するのが好きで、本の値段がどこまで安くなるかは彼の気分で決まり、そして会計時に本のカバーに店主の手により「水準書局」の印が押される、ということに気付くだろう。じっくり観察してみると、この三つの特色の中に水準書局の物語が見えてくる。 

「おしゃべりをこよなく愛する書店:水準書局」より

映画監督・侯季然(ホウ・チーラン)によるドキュメンタリー映像集『書店の詩(うた)』日本語字幕付きバージョンYouTube再生リストはこちらから。



日本と同じく読書離れや出版不況の続く台湾では、なぜか今、独立書店と呼ばれる個人経営の町の本屋が元気だ。
個性あふれる店主たちを活写した四十三篇の文章からは、台湾で新たに花開いた「独立書店文化」を通して、知られざる普段着の台湾が見えてくる。
本書と並行して気鋭の台湾映画監督ホウ・チーランにより撮られたショート・ドキュメンタリー集『書店の詩』(書店裡的影像詩/全四十篇)へのリンクも併せて収録。
美しい“影像詩”が、見る者を台湾の路地裏へと誘う。
本と映像で“行ったつもり”の台湾書店巡りをご堪能あれ!



文化の発信地、地域の交流の場として
個性豊かな「独立書店」の魅力に迫る

「台湾」は近年、人気の海外旅行先として広く一般によく知られるようになりました。書店に並ぶ台湾旅行ガイドブックはここ数年で飛躍的にその数を増やし、雑誌の旅行/海外特集などでも盛んに取り上げられるようになりました。また日本各地で台湾に関するイベントも急激に増えているように思います。

距離の近さから、旅行先として何度も台湾に足を運ぶ人たちの中には、その歩んできた歴史や親日/知日/懐日というキーワードを元に、求める情報も通り一遍のグルメや観光情報から「もっと深く台湾を理解する」ためのものに移行してきているのではないでしょうか。数年前にくらべ、台湾に関する書籍も増えてきています。

そんな中、台湾の書店についてはどうでしょうか。洗練された雰囲気、書籍と一緒に取り扱う雑貨類のデザイン性や品質の高さ、そして座り読みが許されるユニークさから、大型チェーン系書店の「誠品書店」が観光スポットとしてガイドブックや旅行特集等で紹介されているのを目にします。ですが、台湾の書店=誠品書店なのでしょうか?


実は台湾各地には、個人経営による書店や古書店が沢山存在します。個人経営のいわゆる本屋さんは、台湾では「独立書店」と呼ばれています。カフェを併設したり関連の雑貨を売ったり…というのは当たり前、店主たちは各自がこだわりを持ち、文化の発信源として、地域の交流の場として、「物を売る」だけではない、プラスアルファの部分に着目し、日々書店という一つのプラットフォームを通じて、そこに集う人々の生活を豊かにするべく奮闘しています。そんな彼らの姿に迫り、台湾の書店事情や、台湾で定着しつつある独立書店文化を知ることのできる作品が、ルポルタージュ本『書店本事 台湾書店主43のストーリー』(以下、『書店本事』)とドキュメンタリー映像集『書店の詩』(です。



「独立書店」の店主を活き活きと描きあげる
書籍『書店本事』と映像詩『書店の詩』

台湾各地の個性的な書店約40店を紹介した2014年発行の『書店本事』と『書店の詩』は、書店が舞台の連続テレビドラマ『巷弄裡的那家書店』(訳:路地裏の書店)がきっかけとなり製作されました。ドラマの脚本班がエピソードを集めるために訪れた台湾各地の独立書店で見聞きしたエピソードを通じ、さまざまな経営形態、個性的な店主とその理念、そして店が地域社会に果たす役割や存在意義などに着目。台湾に根付きつつある独立書店文化をテーマに据え、文章と映像という異なるアプローチでその実態に迫ったユニークなスピンオフ作品です。

書籍『書店本事』は、店主へのインタビューを元に、その店の成り立ちやコンセプト、店主の思いなどが活き活きと描かれたルポルタージュ集です。一つの書店につき6ページの紙幅を割き、各書店については「空間本事」(店の基本情報)、本文(取材記事)、「人物本事」(店主プロフィール)、「茶話本事」(店主へのQ&A)の4つのセクションで構成されています。本文(取材記事)は気軽に読むことのできる程よいボリュームで、書店を紹介するガイドブックとして、読み物として十分に楽しむことができます。

映像集『書店の詩』は台湾の映画監督・侯季然(ホウ・チーラン)によるドキュメンタリー作品です。店主へのインタビューをメインに構成されたものから、店を定点観察したもの、さらにはイメージ映像のようなものまでさまざまな表現方法により作られたドキュメンタリーは、一つの書店につき3~4分前後の長さで、ちょうど日本のテレビ放送で番組と番組の間に流れるミニ番組に似ているかもしれません。台湾では前出のドラマ放映当時に、番組のミニコーナーとしてドラマ一話につき一つの書店が紹介されるかたちで、テレビで放映されました。また、映像集を一つの作品とし映画祭で上映されるなど、ドキュメンタリー映画としても評価されています。台湾では全編を収録したDVDが出版されているほか、誰でも自由にアクセスできる状態でYouTubeにも公開されています。



日本語字幕付きバージョンYouTube再生リストはこちらから。



出版不況にめげない! 台湾の活力あふれる書店文化
台湾の新しい魅力を知って欲しい

発起人、小島あつ子より

思えば『書店本事』との出会いも、大好きな台湾映画がきっかけでした。『狼が羊に恋をするとき』(12)を監督した侯季然(ホウ・チーラン)の撮った台湾の本屋さんがテーマのドキュメンタリーが中国で高評価された、というネットのニュースを見たのが2015年の春のこと。ニュース記事にあったタイトル『書店裡的影像詩』からすぐに映像にたどりつけたのは、幸運にも、このドキュメンタリーがネット上に公式に全編公開されていて、誰でも自由に視聴ができたからです。

そこに映し出されていたのは「独立書店」と呼ばれる台湾各地の町の本屋さん。どれひとつとして同じものはなく、経営者のこだわりが反映されていてひたすら面白い! 個性あふれる台湾の本屋さんの映像からは、台湾の街そのものの息吹が聞こえてくるようでした。その後しばらくして、書籍版『書店本事:在地圖上閃耀的閱讀星空』が出版されていたことを知り、台湾から取り寄せて読んでみました。映像だけではわからなかったそれぞれの本屋さんや店主のストーリーが載っていて、とても興味深い内容でした。これは絶対に面白い、いつか日本に紹介したい、でも紹介するなら本と映像、必ず一緒に…。

日本と同じく読書離れが進み、出版不況にある台湾ですが、そんな逆境にめげることなく、台湾では独立書店が新しい文化のひとつとして根付きつつあります。読書活動を推進する場として。地域コミュニティの情報プラットフォームとして。店主を含む、書店に集う人々が「小確幸*」を楽しむ空間として。そんな活力あふれる台湾の書店文化を、一緒にのぞいてみませんか?

※小確幸…作家・村上春樹さんによる造語で「小さいけれども、確かな幸福」を意味する。台湾で流行語となった。



本書に掲載の43書店

Section 1
老舗の書店−−時間は滔々と流れる長い河、悠久の時を経ても衰えることはない


舊香居〔台北〕 --時空を超えた蔵書の世界
古今書廊〔台北〕 --「古」にも「今」にも造詣ある書店
人文書舍〔台北〕 --台湾近代史を見守る時空回廊
唐山書店〔台北〕 --地下に隠れた知識の宝庫
金萬字二手書店〔台南〕 --台南で一番古い古書店
女書店〔台北〕 --婦人解放運動の聖火リレー
茉莉二手書店〔台北〕 --「環境保護」「公益」「読書」を推進するチェーン系古書店
南天書局〔台北〕 --台湾「文史」の記録者たる書店
水準書局〔台北〕 --おしゃべりをこよなく愛する書店

Section 2
経験を積んだ書店−−一日、また一日と過ぎゆく読書時間の中で、理想がかたちになっていく


好樣本事〔台北〕 --地球で最も美しい読書空間
有河book〔新北〕※閉店 --詩の書かれたガラスと川岸が言葉を交わし合う姿を眺められる書店
小小書房〔新北〕 --自分のやりたいことにこだわる、ご町内の書店
阿福的書店〔新北〕 --子供たちのためのおはなし屋さん
九份樂伯二手書店〔九份〕 --神隠し山の古書店
草祭二手書店〔台南〕※閉店 --本のための空間を、断固として維持する。
府城舊冊店〔台南〕 --台湾文学と古書文化の推奨者
舊書舖子〔花蓮〕 --眠れる古書を呼び覚まし、彼らのために第二の春を
時光二手書店〔花蓮〕 --猫と犬と本の香り
魚麗人文主題書店〔台中〕 --魂のバンケット
午後書房二手書店〔台中〕 --たった一人で営む書店
洪雅書房〔嘉義〕 --社会運動のプラットフォーム
阿維的書店〔台北〕 --台湾版パヴァロッティの夢のプラットフォーム
春成書店〔恆春〕※閉店 --台湾の端・古都恆春の書店

Section 3
新しい書店−−飛び立ったばかりの夢を、今ここに記す


永楽座〔台北〕 --台湾文化の理解のための文化サロン
荒野夢二〔桃園〕
 --街角に佇む、日々に欠かせぬお惣菜のような書店 伊聖詩私房書櫃〔台北〕 --共に美しい地球を目指す書店
小間書菜〔宜蘭〕 --田舎の書“田”
晴耕雨讀小書院〔桃園〕 --田んぼに漂う魅惑の書香
舊書櫃〔宜蘭〕 --古い倉庫に漂う本の香り
三餘書店〔高雄〕 --ご当地高雄の民間パワーによる文芸サロン
晃晃二手書店〔台東〕 --バックパッカーの心の補給所
Zeelandia Travel & Books〔台北〕 --
新手書店〔台中〕 --身勝手な書店
Bookstore 1920s〔台北〕 --大稻埕のかつての賑わいを甦らせる書店
瓦當人文書屋〔新竹〕 --夢にまで見た文学の書斎
蕃藝書屋〔屏東〕 --村のために火を灯し、希望の種を植え付けよう
虎尾厝沙龍〔雲林〕 --古民家の中の文化サロン
南崁1567小書店〔桃園〕 --桃園の小さな文化村
書酷英文書店〔新竹〕 --英語の本を読む環境をシェアする村
恋風草青少年書房〔台中〕 --十代の成長に寄り添う読書空間

Section 4
蔵書豊富な書店以外の店−−「読書」、売ります


「古殿樂藏」唱片藝術研究中心暨「古殿樂藏」〔台北〕 --歴史の声に耳を貸せ
書店喫茶一二三亭〔高雄〕 --哈瑪星(ハマセン)の古民家を救う書籍喫茶
Room A〔台南〕 --読書空間、時間貸しします

《著者・訳者プロフィール》

文 郭怡青(グオ・イーチン)
彷徨える前半生を送った後、米ボストン大学、英ロンドン大学で論文を書き上げ、日本に漂着する。世界中を旅するのを好み、各国に足跡をつけて回る。地球を一周したところで縁あって『經典雜誌』に拾われ、そこでも流浪の旅を継続。共著『海峽:文明的交會與分野』で金鼎獎にノミネートされる。現在はフリーライターとして、文字世界の中をブラブラと放浪し続けている。

絵 欣蒂小姐(Miss Cyndi ミス・シンディ)
フリーのイラストレーター、アーティスト。デザインによって人生を思考し、文学と芸術に情熱を注ぐ。あらゆる種類の動物を愛し、三匹の毛むくじゃらな子たちと、日々を過ごしている。
Web:http://misscyndi.com/
Facebook:https://www. facebook.com/MissCyndiLin/

映像 侯季然(ホウ・チーラン)
1973年台北市生まれ、映画監督、脚本家、作家。作品の多くは日本の映画祭で上映されている。代表作は『有一天』(2010)、『狼が羊に恋をするとき』(12)、『四十年』(16)。

訳 黒木夏兒(くろき・なつこ)
台湾のサブカル作品中心に翻訳。台湾BL小説『示見の眼』は個人で受権し、電子書籍で展開中。映画『太陽の子』で字幕翻訳担当。最新翻訳は台湾漫画『北城百畫帖』(2019年4月末に配信開始)。
プロジェクト・たいわにっく:https://www.facebook.com/project.taiwanic/
翻訳事務所水茎亭ブログ:http://www.suijintei.com/

訳 小島あつ子(こじま・あつこ)
『書店本事』翻訳出版プロジェクト発起人。台湾への尽きせぬ興味と「台湾映画の中の台湾」に惹かれ、自主上映活動を行う「台湾映画同好会」を2015年に立ち上げる。元・図書館司書。本よりも本に囲まれた静謐な空間が好き。2017年より、台湾映画の特集上映等で劇場パンフレットの編集や作品解説などを担当。
台湾映画同好会:https://www.facebook.com/taiwan.cinema.club/