第二次世界大戦前夜のギリシャ、味わい深い絵と独特の詩情で描かれた
大人のためのグラフィックノベル
書名:レベティコ-雑草の歌
著:ダヴィッド・プリュドム
訳:原 正人
発行:2020年10月
ジャンル:外国文学/コミック
仕様:A4変形判/108ページ
ISBN:978-4-909125-24-8

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そこに現実はねえ!

オレたちの周りにいる港の男どもをみてみろよ

ヤツらはここに来てオレたちが歌う真実に酔う

オレたちの人生はつながってるのさ…

著:ダヴィッド・プリュドム(David Prudhomme)
1969年10月4日、フランスはロワール川流域古城群にほど近いトゥール生まれ。7歳で初めてンド・デシネバ(=フランス語圏のマンガ)を描く。左利き。ルーヴル美術館、先史時代の洞窟、奇人変人たちが住む村、中世の動物寓話、浜辺の一日など、これまでに多種多様なテーマのンド・デシネを発表。新作に取り組むたびに、テーマに合わせて新しいスタイルに挑戦している。2004年、日仏のマンガ家によるアンソロジー『JAPON』(飛鳥新社)の企画に参加するために初来日し、九州に滞在。さまざまな刺激を受ける。2012年に再来日を果たし、福岡を拠点に力士をテーマにした創作に励む。力士のイラストは300点にのぼり、それらをもとにフランスで展覧会が行われ、「スモウグラフィ(Sumographie)」という書籍が出版された。その後、2016年、2018年、 2019年にも来日している。本書『レベティコ-雑草の歌』はダヴィッド・プリュドムが自分自身の一部だと語る自信作。

ギリシャのブルースとも呼ばれる「レベティコ」の世界を
味わい深い絵と独特の詩情で描いた傑作バンド・デシネ

 第二次世界大戦前夜の1936年、軍人上がりのイオアニス・メタクサスが首相に就任し、ギリシャはファシズムへの道をまっしぐらに進んでいた。当時ギリシャのアテネでは、レベティコという音楽が流行していた。レベティコのミュージシャンたちが歌ったのは、自らが属す下層階級の人々の生きづらい日常。それが下層階級の人々から熱烈に受け入れられた。一方、当局にとっては、定職につかず、ハシシを常習し、喧嘩に明け暮れ、犯罪まがいのことに手を染めることもいとわず、昼はぶらぶら過ごし、夜な夜なバーで演奏してひと騒動起こすレベティコのミュージシャンたちは、風紀を乱す社会のお荷物以外の何ものでもなかった。
 主人公のスタヴロスもそんなミュージシャンのひとり。彼は仲間たちとグループを組み、自由気ままな生活を送っていた。グループのリーダー、マルコスが半年ぶりに刑務所から出所したその日、スタヴロスと仲間たちは再会を祝い、久しぶりのセッションを楽しみ、乱痴気騒ぎを繰り広げる――。戦争が間近に迫り、自由がまさに失われようとする窮屈な時代に、あくまで我を通し続けた愛すべき人物たちの長い一日の物語。

 

 

 本書は『Rébétiko (la mauvaise herbe)』『Rébétiko (la mauvaise herbe)』というタイトルで、2009年、フランスのFuturopolis(フュチュロポリス)社から出版されたフランス語圏のマンガ=バンド・デシネである。海外で単行本として出版されているマンガはしばしばグラフィックノベルとも呼ばれ、国際的に出版されるが、本書も例外ではなく、グラフィックノベルとして英語、スペイン語、イタリア語など、複数の言語に翻訳されている。

■バンド・デシネとは
 フランス語圏のマンガ。フランス・ベルギーは日本、北米と並んで、マンガの出版が盛んな地域として知られている。日本のマンガとは異なり、バンド・デシネは左開き、大判のハードカバーで出版され、オールカラーで描かれていることが多い。日本でも特にここ10年翻訳が増えていて、さまざまな作品を読むことができる。

■レベティコとは
 レベーティカあるいはレンベーティカとも言われる。20世紀初頭に誕生したギリシャのポピュラーミュージック。ビザンティン音楽や南欧、アラブなど地中海の民俗音楽の影響が色濃いが、レベティコの発展においては、特に1920年代初頭、第一次世界大戦やトルコ革命、希土戦争の結果、トルコ支配下の小アジアに長らく住んでいた膨大な数のギリシャ人が難民としてギリシャに帰郷し、トルコ音楽を持ち込んだことが大きい。物語の舞台になっている1930年代に大きな盛り上がりを迎える。貧困や社会・政治問題、悲恋、麻薬など、当時のギリシャの都市部に住んでいた下層階級の人々が抱える疎外がテーマになっていることが多く、ギリシャのブルースとも呼ばれる。


THOUSANDS OF COMICS(サウザンコミックス) 始動!!

サウザンコミックス編集主幹 原 正人より

 日本にはとても豊かなマンガ文化があります。市場規模、作品の多様性、読者共同体のあり方……。どれもとっても世界に例を見ない成熟度でしょう。出版不況が叫ばれて久しく、全体の販売額はピーク時と比べると相当落ち込んでいますが、それでも未だに多くのマンガ誌があり、電子で読めるマンガも増える一方です。紙の単行本の刊行点数に目をやれば、ここ数年毎年のように約1万2000点ものマンガが出版されているのだそうです。

 しかし、マンガは日本にだけ存在しているわけではありません。北米のコミックスやフランス語圏のバンド・デシネを始め、イタリアのフメッティ、スペインのテベオ、韓国のマンファなど、世界にはいろいろなマンガがあります。

 実はここ10年、そうした世界のマンガで日本語に翻訳されるものはかなり増えてきています。とはいえ、その数はスーパーヒーローもののアメコミを中心に、多い年で約200点程度。日本のマンガの刊行点数に比べたら微々たるものでしかありません。

 世界には、未だ日本ではほとんど知られていないマンガの傑作がたくさんあり、日々ユニークな新作が生み出されています。もしかしたらそれらの中にこそ、私たちを心から楽しませ、励ましてくれる、私たちに真に必要なマンガがあるかもしれません。豊かなマンガ文化を誇る日本で、そうした世界のマンガを読むことができないのはとても残念なことではないでしょうか。

 そんな中、これまでクラウドファンディングを通じて読者と一緒にさまざまな野心的な翻訳出版を実現してきたTHOUSANDS OF BOOKS(サウザンブックス)で、THOUSANDS OF COMICS(サウザンコミックス)というレーベルを立ち上げることになりました。

 記念すべき第一弾はダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』。2019年11月から2020年2月にかけてクラウドファンディングを行い、ありがたいことに多くの方々にご支援いただき、おかげさまで無事出版できることになりました。まずはクラウドファンディングでご支援いただいた皆さんにリターンとして一足先にお届けし、その後、2020年秋以降に一般発売いたします。このサイトでご注文を受け付けしていますので、ご興味がある方はぜひお申し込みください。

 作者や作品のあらすじについては上の紹介文をご参照ください。『レベティコ―雑草の歌』は、ヨーロッパを中心に国際的な評価の高い作品で、既にさまざまな言語に翻訳されています。2010年にはモナコの映画文学国際フォーラムで「実写化してほしい作品賞」を受賞しました。その受賞もうなずける、物語の舞台になっている時代の匂いが今にも漂ってきそうな雰囲気ある作品です。本書のテーマになっているレベティコという音楽、そしてダンスがいいし(ぜひYouTubeなどで「rebetiko」と検索してみてください!)、その音楽に関わる人々もまた実に魅力的です。第二次世界大戦直前のギリシャやレベティコという音楽になじみがあるという人は日本人には少ないでしょうが、一度読んでいただければ、きっと気に入っていただけるんじゃないかと思います。

 この作品を皮切りに、サウザンコミックスでは、今後皆さんと一緒に世界のさまざまなマンガを日本語に翻訳していきたいと思います。歴史的な名作や最新の注目作、うっとりするような美しい作品やなんじゃこれはという怪作、思わずツッコミたくなるバカバカしい作品や誰が読むんだというマニアックな作品……。他社が絶対に出版しそうにない、でもこれが日本語で読めたら最高という作品を皆さんと共有できたらうれしいです。


世界には日本語に翻訳されていない面白いマンガがまだまだたくさんあります。ここに並べたのはほんの一例。

訳:原 正人(サウザンコミックス 編集主幹)
1974年静岡県生まれ。フランス語圏のマンガ“バンド・デシネ”を精力的に紹介する翻訳家。フレデリック・ペータース『青い薬』(青土社)、トニー・ヴァレント『ラディアン』(飛鳥新社)、ジャン・レニョ&エミール・ブラヴォ『ぼくのママはアメリカにいるんだ』(本の雑誌社)、オーレリアン・デュクードレ、メラニー・アラーグ『金正日の誕生日』(誠文堂新光社)、アレックス・アリス『星々の城』(双葉社)、バスティアン・ヴィヴェス『年上のひと』(リイド社)など訳書多数。監修に『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』(玄光社)がある。本書『レベティコ-雑草の歌』とともに立ち上がるサウザンコミックスでは編集主幹を努める。