子どもの行動はコミュニケーション
子どもの行動に対する好奇心を取り戻そう!
『アドラー流子育てベーシックブック(原題:Redirecting Children’s Behavior)』 は、アメリカで30年以上もの間教えられてきた、アドラー心理学に基づく子育てのコースで、本書はそのテキストとして使われてきたものです。
原題にある“Redirect”は日本語では「方向を変える」という意味で、ITの用語では、カタカナの「リダイレクト」も使われます。例えばあるホームページのアドレスを入力したときに、別のサイトがでてきたりするときに「AからBにリダイレクト(転送)された」と言ったりします。
要するに「(そのものが)進んでいた方向を、意図する方向に変える」という意味になります。
この子育てのコースと本は、アドラー心理学に基づいています。タイトルを日本語に直訳すると、「子どもの行動を望ましい方向に変える方法」ということになるでしょうか。
「子どもの行動はすべて(子どもから発せられる)コミュニケーション」という考え方をベースに、子どもとの信頼関係を築くコミュニケーション方法や、子育てが終わってからもずっと続く良い親子関係を築いていく方法について解説している本です。
この本を読むことで、目の前で叫んでいたり、言うことを聞いてくれない子どもが、本当は何を伝えようとしているのか、興味が湧いてくるでしょう。あるいは、もしそのことに心からの好奇心が持てないほどに疲れているのだったら、何よりも優先してやったほうがいいことは何かも書いてあります。
“It takes a village to raise a child” - ヒラリー・クリントンの著書のタイトルにも使われたこの言葉は、子どもを育てるには村全体の協力が必要という意味です。村とはみなさんが所属するコミュニティのこと。そして、家族は一番小さな共同体の形です。お母さんがひとりで頑張るのではなく、パートナー、親兄弟、近所の人、知人友人の助けを借りながら子育てをすることで、この本に書かれているような、子どもの行動に対する好奇心を取り戻せるでしょう。
<目次>
第1章 セルフケアの大切さ
第2章 子どもを勇気づける
第3章 子育てのスタイル
第4章 家族のコミュニケーション
第5章 責任感のある子どもに育てる方法
第6章 子どもの行動はコミュニケーション
第7章 セルフコントロールを教える
第8章 兄弟関係
第9章 本書のまとめ
短期的な子育てマニュアルではなく
一生続く親子関係をどのように築くのかを考える
発起人・翻訳 塚越悦子より
私が『Redirecting Children’s Behavior(RCB)』 という子育てのコミュニケーションコースに出会ったのは2007年の秋、長男が生後14か月くらいのときでした。当時はアメリカに住んでいて、次男の出産を12月に控えており、もうすぐ「兄弟の親になる」ということでプレッシャーを感じていたのです。
プレッシャーのきっかけは、夏に日本に里帰りしたときに、私の年子の兄が1歳になる長男を前にして言った言葉「この子は、こんなに小さいのにもう『お兄ちゃん』になるんだな」。
言外に「かわいそうになぁ」というニュアンスのあったその言葉を聞いて、ものごころがつくよりも前に下の兄弟(私)が生まれたことで、彼は「お兄ちゃん」として育てられたという事実があり、それなりに苦労した思いがあったんだなぁと感じたのです。
当時、夫も私もフルタイムで働いていたので、これから共働きをしながらふたりの小さな子どもたちを育てるにあたり、どういうふうにしたらうまくいくのだろう、と不安がありました。
そんなとき、何かで目にしたRCB子育てコミュニケーションコースの広告に興味を惹かれ、夫と一緒に受講することにしました。
この本は、RCB子育てコミュニケーションコースのテキストとして使われていたものです。コースに感銘を受けた私は、次男を出産した翌年(2008年)にインストラクターの資格をとり、サンディエゴ在住の日本人を対象にセミナーを始めました。そして、いつかはこの本を日本語に翻訳したいと密かに思い続けてきました。一度はある出版社から翻訳をやりましょうという言葉もいただいたのですが、2011年の震災後に担当者が変わってしまい、そのまま幻のプロジェクトとしてお蔵入りになっていました。
2014年に日本に移住してから、あるご縁をいただいてサウザンブックスと出会い、それからさらに数年が経ち、ついに今、この本の翻訳プロジェクトが立ち上がりました。10年越しの夢がかない、とてもワクワクしています。
私たち夫婦はあれから3人目の子どもを授かり、今では3人の小学生の男の子を育てています。
3人のワイルドな男の子を育てるにあたり、何度も心が折れそうになりながらもこの本のコンセプトを心の支えにして今までやってきました。我が家の子どもたちは3人ともまだ小学生なので、道半ばではありますが、セルフケアに十分な時間がとれており、調子がいいときには、子育ては楽しく、自分を成長させてくれるもののように感じられます。そして、そうでないときは、パートナーや、近所に住む友人や、両親など、家族ぐるみでかかわってくれる人が助けてくれます。
この「育児書」は、いわゆる「子育てマニュアル」とは少し違っています。その根底にあるのは、子どもにどのような大人になってもらいたいか? というビジョンに対する問いかけであり、子育てにおける哲学といってもよいような、大人のための行動指針です。
子どもが手を離れるまでの短い期間ではなく、子どもと親の関係は一生続くものという前提で、どのようなコミュニケーションを心がけると良いのか、たくさんの具体例がでてきます。
現在、小さなお子さんをお持ちの方、いわゆる「子育て真っ最中」という方だけでなく、思春期のお子さんをもつ人にも有意義な考え方のヒントがたくさんつまっている本です。
自分自身の生き方や価値観も大切にしながら、自らの力で自分の生き方を選択できる子どもに育てるためのコミュニケーションや考え方を学び、子どもと一生ものの関係を築いていきたいと思っている皆さん、ぜひ読んでみてください!