トランスの男の子エイダンがお兄ちゃんになる時
原書の情報
書名:エイダンがお兄ちゃんになったとき (原題:When Aidan Became a Brother)
文:カイル・ルーコフ
絵:ケイラニ・ホアニータ
発行国:アメリカ合衆国
発行年:2019年
ジャンル:児童/フィクション/海外絵本
対象:低学年から
ISBN:978-1620148372

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生まれてくる赤ちゃんをありのままに受け入れたい
エイダンの心を繊細に描く

エイダンは女の子として育てられましたが、日常のすべてを苦痛に感じていました。パパとママがつけた可愛らしい響きの名前も、女の子っぽいものであふれた部屋も、用意された洋服も。やがて本当は自分は男の子であることを両親に伝え、名前も部屋も服装もしっくりくるものに変えて、男の子としての生活を始めます。

そんなある日、家にもうすぐ赤ちゃんがやってくることになりました。
「それって、つまりぼくはお兄ちゃんになるってこと?」
「そうだよ!」
エイダンは、自分のような男の子がお兄さんになることはとても大事なことのように思いました。赤ちゃんが、自分と同じ苦しみを味わうことがなくありのままで生まれてこられるよう、そしていいお兄さんになれるよう、パパとママと一緒にさまざまな準備を始めます。
ベビー服の柄をタツノオトシゴにするかペンギンにするかで悩んだり、赤ちゃんの部屋を空色のペンキでぬったり、男の子でも女の子でもいいような名前を考えたり、絵本の読み聞かせの練習をしたり。

ところが、出かける先で会う大人たちは、みんな赤ちゃんの性別を知りたがります。
「生まれてくる赤ちゃんは男の子?それとも女の子?」
「弟か妹が生まれてくるのは楽しみかい?」
これまで自分が男の子なのか女の子なのか聞かれて苦しい思いをしてきたエイダンは、そのような質問をされるたびに複雑な気分になりました。

いよいよ赤ちゃんが生まれる時期が近づいて、エイダンは不安でたまりません。
服はあれで本当によかったのかな。
空色のペンキはちょっと明るすぎたかな。
どの名前がいいか、赤ちゃんに直接聞けたらいいのに…。

はたして、エイダンは無事にきょうだいを迎えることができるのでしょうか。

・2020年 ストーンウォール児童文学賞(Stonewall Children’s and Young Adult Literature Award)受賞
他、受賞作多数


たとえ拙かったとしても
トランスの友人たちや全国のトランスユースのために

発起人・翻訳:八尋 遥(やひろ はるか)

こんにちは、あるいははじめまして、発起人・翻訳の八尋遥です。
2018年にサウザンブックスPRIDE叢書第二弾として翻訳出版した絵本『ふたりママの家で』のクラウドファンディング宣伝チーム、および編集担当を務めました。その節は多くの方に大変お世話になりました。編集の仕事はあれからほぼ遠ざかっていますが、翻訳書/翻訳絵本そのものへの愛は尽きておらず、いつか自分も訳す側になりたい想いが高じて翻訳の勉強もしていました。

ありがたいことに『ふたりママの家で』を翻訳出版して以降、たびたび「LGBTQ×絵本」に関する記事執筆の機会をいただくようになりました。最新の関連絵本は常にチェックするようにしているのですが、記事を書く際に改めて直近で刊行されたものをリストアップすると、日本語で出版されているトランス・ノンバイナリーに関する絵本のバリエーションがとても少ないのです。この数年で新しく刊行された、トランス・ノンバイナリーを描いた素晴らしい絵本もありますが、同性カップルや多様な家族がテーマの既刊絵本と比較すると、トランス・ノンバイナリーが登場するものが現状の日本では圧倒的に不足しているなと長らく感じていました。まだ国内で翻訳出版されていない多数のLGBTQ絵本の中でも特に世に出す必要があると思い、英語の原書絵本を重点的に探していたところで出逢ったのが本書『When Aidan Became a Brother(仮題:エイダンがお兄ちゃんになったとき)』です。

本書の主人公エイダンは、新しく生まれてくるきょうだいのためにあれこれと悩む、健気なトランスの男の子。自身の性別への戸惑い、生まれてくるきょうだいに投げかけられる周囲の大人の発言への違和感などが、エイダン本人の視点で描かれた物語です。

私はこれまでの活動の中でたくさんのトランスの子ども・若者と出会ってきました。そして数多くのトランスの友人がいます。みんなと一緒にこれからも生きていくのは私にとって当たり前のことです。LGBTQコミュニティで活動するシスジェンダーである自分がトランスアライとして出来るアクションはなんだろうと考えた時、トランスの子どもが出てくる絵本を翻訳出版することもそのひとつではないかと思いました。たとえ拙かったとしても、自分の翻訳する力は、身近にいる愛おしいトランスの友人たちや全国のトランスユースのために使いたいと思っています。

マイノリティの個別具体的な物語はたくさんあればあるほど良く、特にトランスジェンダーの人々へのヘイトスピーチが悪化をたどる一方の社会において、トランスの子どもが自己投影できる物語を出すことは命の問題にも繋がることではないでしょうか。
本はどこへだって飛んでいけます。全国のクィアな子ども・若者が少しでも「ひとりではない」と思えるような、支えになり得るような本を出したい。その想いは『ふたりママの家で』の出版時からずっと変わっていません。今度は、ひとりのトランスの子ども、エイダンのお話を日本に届けるために、プロジェクトへのお力添えをお願いいたします。



八尋 遥(やひろ はるか)
東京出身。会社員のかたわら、2016年からLGBTQの子ども・若者の居場所づくりに関わる。元書籍編集者。過去の編集担当作に『ふたりママの家で』(2018)、クラウドファンディングの広報担当に『ミスエデュケーション』(2020、ともにサウザンブックス)。LGBTQ×絵本について、季刊セクシュアリティ、子ども白書、kodomoe等に寄稿。絵本『これがじぶんのいろ』シリーズ(ゆまに書房)翻訳協力。