おいしくて、豊かで、おもしろい
ご飯を食べればマレーシアが見える
書名:食から探るマレーシアの魅力(仮)
著:古川音(ふるかわおと)
ジャンル:単行本・紀行・料理
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あるがままの自分でいられた
「多様性」のあるマレーシアの魅力を伝えたい

突然の告白で恐縮だが、わたしはマレーシアに感謝をしている。マレーシアのおかげで、あるがままの自分でいられるようになったから。マレーシア? あるがまま? いきなり何? と思ったあなた、気持ちはよくわかる。でも、なんか気になる、と思ったら、話を少し聞いてもらえるとうれしい。

わたしがマレーシアと出会ったのは2005年。夫の転勤でマレーシアに住むことになった。当時は、英語はまったくダメだし、マレーシアってどこにあるの? という知識の無さで、ちゃんと生活できるか不安。案の定、4年のマレーシア滞在は、失敗ばかりのトホホライフだったが、気がつけば、失敗は笑い話になり、日本と違った異文化に接するのはおもしろくて、じぶんでも驚くほどマレーシア暮らしをエンジョイした。

そして、本題はここからだ。帰国後、日本の景色が昔と違って見えるのだ。なんか、しっくりこない。正直に言うと、あまり心地よくない。何がそうさせているかというと、日本の社会にある暗黙のルールとやらがつかめない。つかめないから、余計に焦る。

ある日のこと。渋谷駅の階段を歩いていたら、とつぜん恐怖を感じた。目に入ってくるのは、階段にびっしり書かれた注意書きの文字、歩く方向をさし示す矢印。それらがものすごい圧で怖い。もし、わたしが矢印の意味を知らなかったら? 何か勘違いをして間違った方向に歩いたら? そんなことをしたら、周りの人にボコボコに殴られそう。そんな妄想がぐるぐる頭をめぐり、震えそうになった。こんな感情、4年前まで一度も感じたことがなかった。そうか、どうもわたしはマレーシアで暮らしたことで、日本を俯瞰してみれるメタ認知能力を手に入れたらしい。そう理解したら、怖さは消え、ちょっとうれしくなった。

それから事あるごとにマレーシアを思い出すようになった。カレーを食べればマレーシアのほうがおいしかったなぁと感じ、映画を見ればマレーシアの映画館で観客みんな膝をたたいて大笑いしていた光景がよみがえる。そしてあらためて、わたしはマレーシアという国が大好きなんだ、とわかった。

マレーシアのどういうところが好きなんだろう? おいしい食事、フレンドリーな人たち、南国のあたたかい気候。ぜんぶ好きだけど、いちばん惹かれるのは、マレーシアの多様性のある社会だ。マレーシアは、マレー系、中国系、インド系の三大民族を有する多民族国家で、多文化社会だ。さまざまな人々がいるので、みんな違ってあたり前、という社会の前提がある。たとえば、看板の言語は複数表記、宗教が違うために食事の禁忌が異なる人が隣りどうしに暮らしているのはいたって普通のこと。

だから、ある事について知らない人がいたら、教えればいいし、聞けばいい、と思っている人が多く、渋谷のような同調圧力を感じることが少ない。たぶんきっと、自分とは違う民族と接するなかで、ある事は知る立場であり、ある事は知らない立場、という入れ替わりが頻繁に起こるので、どちらもの気持ちがわかるのだろう。

そして、多様性のあるマレーシアで暮らしたことで、わたしは変わったと感じる。わたしはわたしでいいんだ。そんなあたり前のことが体と心にすっとなじむようになり、あるがままの自分でいられるようになった。

というのも、マレーシア人はマイペースな人が多く、人に合わせるより、合う人を探して仲良くすることが多い。苦手な人と接するときは、相手や自分を変えようとせず、その人の存在を認めたうえで、適度な距離をとる。大事なのは、苦手でもその人の存在を認めること。それがあるおかげで、同時に自分も相手から認められ、社会全体への安心感が増すのだ。

そんなマレーシアの魅力のなかで、わたしがずっと調査・研究しているのが食だ。多様性がうみだしたバラエティ豊かなマレーシア料理は、マレーシアの大きな魅力であり、食べることで体感できるぴったりのテーマ。

2023年、約1カ月かけてマレーシアごはん調査旅を行った。そこで出会ったさまざまな人、食、会話のエピソードをもとに、マレーシアの魅力をまとめた本を制作することに決めた。ひとつの国にある、多様な食文化のおもしろさを伝えられたら、と願っている。










おいしくて、多様な食
そしておもしろいマレーシア人たち

「多民族社会とはいったいどういうもの? 食から探るマレーシアの魅力」。――本書は、旅をしながら出会ったマレーシア人の台所やふだんの食事風景を描く“ごはん旅行記”。たとえば、さまざまな家庭料理をとおして見えたのは、家族の数だけある多様ないつもの味。それらはどれもがマレーシア料理を構成する大事な要素であり、そしてまたマレーシア料理という集合体の一部であった。



<内容案>
・ペナンで出会った「ニョニャ」料理にみる、祖母から母へ、母から娘へ、と受け継がれた技。食材の下処理だけで2時間など、手間をおしまない作業がうみだす究極の家庭の味。

・トレンガヌで訪れた海辺の“揚げもの”屋台。カリカリに揚がった衣をまとったイカ、ソーセージ、エリンギにチリソースをたっぷりつけ、手でつまみつつおしゃべり三昧。

・イポーのレストランで教わった「イポーチキン」。徹底した素材へのこだわりでうみだしたシンプルながら絶品の味。その土地がうみだした料理の魅力を解説。

・インド系ファミリーのチキンカレーには、家族の“いろいろ”がつまっていた。義母から教わったカレー粉のレシピ、退職後に料理に目覚めた母と娘の関係を見つめる。

・クアラルンプール近郊で暮らすジョハリさんは、記憶の味を頼りに母の料理を再現する日々。その行為は「亡くなった母への祝福につながるから」と語ってくれた。

・ジョホールの伝統料理「ジョホールラクサ」にみる世代間格差。現代に生きる若者たちに人気なのは、チーズたっぷりの鉄板焼きや外国料理として人気の寿司。

・マラッカの実家の敷地で、自分で建てた小さな菓子店を営むCDさん。幼いころ料理が大好きで「私にとって料理はセラピーです」とのこと。

・ボルネオ島のサバ州、山で暮らす民族の家庭料理。庭で自生する野菜を発酵させた漬物や、魚の干物をココナッツミルクで煮込んだ素朴で滋味深いおかずの数々。

・ボルネオ島のサラワク州、屋台と常連客の密な関係にびっくり。たとえば「2週間休むから」と店主から常連客に電話。この関係性が、伝統の味を次世につなぐ。


マレーシア旅が楽しくなるガイドや多様性を理解するヒント

この本では、さまざまな文化背景をもつマレーシア人に登場してもらい、家庭料理や食生活を紹介しながら、多様なマレーシアの文化を描きだす。おいしそう、食べてみたい。そして読み終わるころには、多様性がうみだす、わたしはわたしでいいんだと思える安心感があなたの心をじんわり包みこむ本にしたい。

マレーシアに興味がある方は、マレーシアをより理解することができ、こういうことってあるある!と笑ってうなずいてもらえることだろう。マレーシア旅で活用できる料理紹介ページもあるので、お楽しみに。

最後に、ひとつだけ。マレーシアの多様な食事は、おいしくて、豊かで、おもしろい。20年前にこの活動を始めたときからずっとその想いは変わっておらず、まぁ、いってみれば、沼っている。そんなオタク度満点の視点で、SNSやWebで情報をずっと発信してきたが、最近どうしても本を作りたい、と考えるようになった。なぜなら、マレーシアの魅力は、いろんなエピソードを1冊にして並べないと体感できないからだ。また、活字という情報の奥にある空気感、手触り、香りを想像してもらうためには、やっぱり本しかないと思う。出版業界が厳しい昨今、こうやってクラウドファンディングに挑戦できるだけでもうれしい。そして応援してくれるみなさんに出会えたら、もっとうれしい。応援、よろしくお願いします。

発起人:古川音(ふるかわおと)
熊本生まれ。編集ライター、マレーシア食文化研究家として、マレーシア(とくに食)に関するライティング、文化講演、レシピ提供、料理講師を担当する。2005〜2009年、マレーシアのクアラルンプールで暮らし、現地の日系出版社に勤務。マレーシアの食、カルチャー、観光情報の取材・執筆の経験を積む。マレーシアの多様な民族が多様な価値観をもったまま暮らす社会のおもしろさに興味をもち、とくに多様な価値観がうんだ豊かな食に魅せられて活動中。著書に『地元で愛される名物食堂 マレーシア』(地球の歩き方 / 現在はKindle版)、『ナシレマッ』(マレーシアごはんの会)、取材・執筆『地球の歩き方 マレーシア編』(ダイヤモンド社)など。好きなこと、犬との散歩