12歳の夏休み、はじめて女の子とキスをした。
次の日、交通事故で両親が死んだ。
書名:ミスエデュケーション
著:エミリー・M・ダンフォース
訳:有澤 真庭
発行年:2020年11月
ジャンル:フィクション(ヤングアダルト・中高生〜一般)
ISBN:978-4-909125-22-4

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著:エミリー・M・ダンフォース (emily m. danforth)
モンタナ州マイルズシティに生まれ育つ。モンタナ大学で創作文学の美術学修士号、ネブラスカ大学リンカーン校でクリエイティブライティングの博士号を取得。同大学の〈ネブラスカ・サマー・ライターズ・コンフェレンス〉ではアシスタント・ディレクターをつとめた。ダンフォースはロードアイランド大学にてクリエイティブライティングおよび文学課程を教え、『The Cupboard』の共同編集人でもある。本書はダンフォースのデビュー作となる。著者のウェブサイトは、www.emilymdanforth.com

訳:有澤真庭(ありさわ まにわ)
千葉県出身。アニメーター、編集者等を経て、現在は翻訳家。主な訳書に『アナと雪の女王』『キングコング 髑髏島の巨神』『自叙伝 ジェームズ・T・カーク』(竹書房)、『スピン』(河出書房新社)、『いとしの〈ロッテン〉映画たち』(竹書房より近刊)、字幕翻訳に『ぼくのプレミア・ライフ』(日本コロムビア)がある。

「同性愛矯正施設」に送り込まれても仲間と共にたくましく生き抜く、
LGBT青春小説

『ミスエデュケーション』は2012年にアメリカで誕生した、レズビアンの少女キャメロンの半生を描いたヤングアダルト小説。同タイトルの映画(邦題『ミスエデュケーション』)の原作です。

舞台は90年代初頭の米・モンタナ州。12歳の主人公キャメロン・ポストは、女の子とキスをした翌日に交通事故で両親を亡くし、超保守的な叔母との生活を余儀なくされます。その後「秘密」がばれてしまい、叔母によって同性愛の矯正治療施設「神の約束」に放り込まれてしまいます。施設でさまざまな矯正プログラムを通し、職員たちから「同性愛は罪」と繰り返し伝えられる日々にとまどい、うんざりするキャメロンですが、そこで出会った仲間たちとの絆を深めていきます。しかしある日、大事件が起こり…。
キャメロンは、仲間たちは、いったいどうなってしまうのか。

著者は、本書がデビュー作となるエミリー・M・ダンフォース(Emily M.Danforth)。ロード・アイランド大学の助教授で、同性パートナーと暮らすレズビアンです。「同性愛者の少女の思春期の日々を、数年かけて追った成長物語を書きたい」と願って本書を執筆しました。実際に同性愛矯正治療キャンプに送られた16歳の男の子の話を知り、調査を行ったことが物語に大きく活かされています。

本書を原作とした映画『The Miseducation of Cameron Post』(2018年/監督:デジレー・アカヴァン)は、サンダンス映画祭2018のUSドラマ・コンペティション部門においてグランプリを受賞。クロエ・グレース・モレッツ(Chloë Grace Moretz)が主人公キャメロン役を務め、圧巻の演技で注目を浴びました。日本では劇場公開されず、DVD発売のみ(2019年2月)となりましたが、青春物語やLGBTQの若者の物語が好きな方に広くおすすめする映画です。

理不尽な環境の中を、仲間とともに精一杯生き抜くキャメロン。その姿に勇気をもらえる、リアルなゲイティーンのお話です。

◆受賞歴
・School Library Journal Best Book
・Amazon.com Best Books of the Year
・Kirkus Reviews Best Young Adult Book
・Amazon.com Best Books of the Month
・ALA Booklist Editors' Choice

◆映画『The Miseducation of Cameron Post』予告編動画





サンダンス映画祭でグランプリを受賞
いきいきとした描写に引きこまれる青春小説の傑作


発起人 菊池 誠より

僕がこの本を手にしたのは昨年です。クロエ・グレース・モレッツの新作主演映画がGay conversion therapy(同性愛矯正施設とでも訳しておきましょう)に入れられたレズビアン少女を主人公とするインディーズ作品で、それが2018年のサンダンス映画祭でグランプリを受賞したというニュースを知ったのがきっかけでした。そういう映画なら観たいなあと思ってちょっと調べてみると、原作はヤングアダルト小説だとわかりました。映画が公開されるのはまだ先だし、ヤングアダルトなら英語も易しいだろうと考えて(それはちょっと甘かったのですが)、それ以外殆ど予備知識がないまま、手に取ったのです。

読み始めてすぐ、僕はそのいきいきとした描写に引きこまれてしまいました。アメリカの田舎町に暮らす主人公キャメロンの生活、仲間との友情、学校でのできごと、そして彼女が思いを寄せる少女コーリーとのこと。物語の後半では一転して、同性愛矯正施設での生活が描かれます。といっても決して悲劇的な話ではなく(事件は起きますが)、理不尽な扱いを受けながらも、そこで出会った仲間たちと友情を育みながらたくましく生き抜いていくキャメロンが時にユーモアをまじえながら語られていきます。これは、LGBTQをテーマにしつつも、ひとりの少女のサヴァイバルとリヴァイバル(再生)を描いた青春小説の傑作です。
物語はキャメロンの回想として書かれています。読み終えて、僕はこれを書いた時の彼女は何歳でそしてどこでどういう暮らしをしているのだろうと思いを巡らせました。作者のダンフォース自身が同性のパートナーと暮らすレズビアンなので、自分の体験も色濃く反映されているのでしょうね。

この作品で取り上げられている同性愛矯正施設とは、キリスト教原理主義に基づいて同性愛を「治療」しようという寄宿制の小さな学校です。そこでは、同性愛は神に対する「罪」なのだと教え込まれます。キャメロンが施設に入れられたのは1993年。2019年の現在、いくつかの州では既に非合法化されているものの、今もたくさんの若者たちがこの「矯正」を受けさせられているそうです。僕たちにはあまりなじみのないこの施設の様子が分かるのも物語の興味深いところです。

ヤングアダルト作品とはいえ、僕の英語力では理解度70%くらいだったでしょうか。特に若者たちの口語には手こずらされたので、これは改めて日本語で読みたいと思いました。そこでツイッターで「翻訳を読みたい」と呟いていたら、サウザンブックスが「出しましょう」と言ってくれて、そんなわけで僕がクラウドファンディングの発起人なんてものになっているのですが、要するに真っ先に僕が読みたいのです。

残念ながら、映画のほうは日本での劇場公開が見送られ、DVD発売だけになってしまいました。映画ではほぼ原作の後半部分だけが使われていて、キャメロンの生い立ちや人となりを描いた前半部はばっさりカットされています。ですから、DVDをご覧になったかたもぜひ原作を読んでみてください。より深い感動を得られるはずです。

ヤングアダルト小説なので中高生に読んでもらいたいのはもちろん、大人が読んでも充分に楽しめる作品です。LGBTQ問題に関心を持っているかたにも、あるいはこれまで特に関心はなかったけど青春小説なら読んでみたいというかたにも、お勧めします。ぜひこの傑作青春小説を翻訳出版するプロジェクトにご協力ください。

発起人:菊池 誠(きくち まこと)
大阪大学サイバーメディアセンター教授。物理学者。本業のかたわら、社会に向けてニセ科学問題や放射能問題についての発言を続けている。著書・共著書に「科学と神秘のあいだ」「いちから聞きたい放射線のほんとう」「おかしな科学」など。好きな作家はP.K.ディック。かつてディック作品の翻訳を手がけたこともある。また、テルミン奏者として、サイケデリックなロックを演奏、細々ながらライブ活動も行なっている。