自分を恥じたり嫌悪することなく生きたい
韓国発、トランスジェンダー当事者が語るコミックエッセイ
書名:僕は、私は、トランスジェンダーです
作:マラン、シャイエン
訳:吉良佳奈江
発行年:2025年5月
ジャンル:コミックエッセイ・ノンフィクション
仕様:四六判/346ページ/4色/並製本
ISBN:978-4-909125-61-3

自分みたいな人は世のなかにあまりいないと思っていたのに

多くの人たちを見て本当に驚いた。

初めてどこか居場所ができた気がした。

著:マラン(말랑)
女性の体を持って生まれたが、男性として生きるトランスジェンダーの男性。男性としても、女性としても生きた経験を持つこともあり、どんな性的指向、性自認の人からの恋愛相談でも受け入れることができる。トランスジェンダーは伝説上の人物ではなく、どこにでもいる平凡な人だということを世の中に知らせるための活動を継続中。いつか性別で人を区別しない社会、外見とは関係なく個人のジェンダーが尊重される社会が来ることを夢見ている。

著:シャイエン(샤이앤)
大学で生物学を専攻し、研究室に籍を置いていたが、辞めてからは自分のアイデンティティを見つめる旅に出る。そこで経験したさまざまなことや感情を記録して、同じような冒険に旅立つ人たちの力になりたくて絵を描くことに。自分を愛することは決して簡単じゃないが、自分をあるがままに見て、そこからさらに一歩踏み出して、そんな答えのない旅は本当に貴重なものだといつも心に刻んでいる。今は絵を描いたり、バンドでドラムを叩いたり、水泳に没頭したりする日々を送っている。

訳:吉良佳奈江(きら・かなえ)
韓国語翻訳者。1971 年静岡県生まれ。東京外国語大学日本語学科、朝鮮語学科卒。おもな翻訳に『大邱の夜、ソウルの夜』(ころから)、『カッコの多い手紙』(書肆侃侃房)など。


2人のトランスジェンダーが
セクシュアリティについての悩みや解決策をオープンに綴る

トランスジェンダーの男性マラン、トランスジェンダーの女性シャイエン。2人の当事者がオープンに語る、韓国生まれのコミック・エッセイ。

多くの人と同じように、この2 人もそれぞれの幸せのために一生懸命生きていて、ときには失敗することも間違うこともある平凡な人たちです。ただ違うのは、セクシュアリティに対する悩み が続いているということ。

自分のセクシュアリティに悩む人、セクシュアル・マイノリティの声を聞いて応援したい人に、新たな学びと勇気を与えてくれる、等身大の温かな物語。

本書は2020年12月に韓国の同一の出版社から同時に発行された2冊の本を1冊にしたものです。著者の二人、マランとシャイエンはそれぞれトランスジェンダーかつ性別違和(以前は性同一性障害という診断名)を抱えたことで、性別移行しました。その移行過程をメモワール/回想録として描いていますが、それだけでなく、移行する前後や途中で感じたり考えた「様々な思い」をも描いています。

多くが平坦な人生ではない性別違和を抱える当事者にとって暗闇の中の小さな「明かり」になるように、また性別違和が何なのかよくわかっていない人々へ当事者の実態を示すために、この本は出版されました。



わたしはマラン



トランスジェンダーはトランスの女性しかいないと思っているネット上の人に、トランスの男性について説明するのを「怖いしそんな勇気ない」とためらうマラン。

 

 



わたしはシャイエン



自分の思い通りにならないトランスジェンダーに対して暴力的になる人がいること、また、トランスジェンダーを嫌悪する人とトランスジェンダーをフェチの対象として扱う人との間で「当事者は人間ではなくモノとして扱われている気がする」と悲嘆するシャイエン。

 

 



日本語で読みたい、伝えたい
トランスジェンダー、性別違和の物語

発起人・akipaka(アキパカ)

 この本を最初に知ったのは、アジア各地のクィア・ジェンダー・フェミニズム・孤独や連帯をテーマにされているブックストア、loneliness booksのウェブサイトを見た時でした。

 「transgender」をキーワードに検索をかけるとサムネイルで表示された今回の2冊の本が現れ、「表記:韓国語」の表記にハードルを感じながらも、本の内容紹介とサンプルページに惹かれました。そして両方とも「残り1点」という在庫数を示す表示に、「この機会を逃すと、ひょっとすると二度と出会えない類の本なのではないか」という考えが頭を過ぎり、まずは「シャイエン」を購入しました。その後すぐ、今回の本が2冊同時に出版された本であることを示す記載があることに気がつき、「マラン」も購入したのを覚えています。

 購入後に、別の本を探すため何度かloneliness booksのサイトを訪れる機会があったものの「Restock notify(=売り切れにつき在庫補充後にメールで通知)」の表示のまま変わることはありませんでした。また同じ本を日本国内で販売している他のウェブサイトがないか探したものの見つけることができず、そのため今回の本は、日本国内ではもう流通していないのではないかという考えが今も浮かんでいます。

 さて、本が到着し、「Google翻訳」という文明の利器を使って読んで見ると、性別違和や移行過程のわかりやすい描写もさることながら、昨今SNS上で苛烈さを見せるバックラッシュ/差別的言説に対する抵抗的な内容が全体を通して描かれていること、また、胸を打つような「推薦の言葉」を読むことができました。

 ちなみに、この2冊の本には、それぞれ「この漫画を描く理由」を描いた章があります。そこには、概ね下記のような説明が書かれています。

・私と同じ状況にあっても情報が得られないために、苦しんでいる当事者が世界のどこかにいるだろう。または、メディアの描写や誤った認識のために、当事者を誤解している人もいるだろう。そんな人々に私が感じた気持ちを伝えたい。決して奇妙なことではないと誤解を解き、誤った認識を少しでも修正したい。どこにでもトランスジェンダーが存在しているという事実を伝えたい。(マラン)

・私は助けたい。たくさん受け取ったから。お世話になった恩を返したいのです。私がこの漫画を描く最大の理由は、同じような他のトランスジェンダーの助けになりたいからです。(シャイエン)

 Googleの助けで一通り読み終えた私の胸に去来したのは、「この本をこのまま「多くの人に知られず埋もれた状態」にしておいて良いのだろうか? もっと多くの人に読まれるべき本なのではないか?」でした。そう考えた私は、2023年6月、「PRIDE叢書」のクラウドファンディングをされているサウザンブックスの問い合わせフォームに「翻訳リクエスト受付の有無」というメールをいきなり送り付けました。これが今回のクラウドファンディングの事の発端となったのです。

 そこから、クラウドファンディングの「発起人」(いわゆる「言い出しっぺのボランティア」)という大変名誉かつ気苦労の絶えない地位を得ることとなり、そして「海外書籍の邦訳出版に携わる」という自分なりの方法で「受け取った恩を返そう、この本を必要とする人へ届けたい。」と、今に至っています。

 今回、サウザンブックスでは3例目の「発起人の顔出し無し・本名出し無し」でのクラファン実施です。「顔出し有り・本名出し有り」では、今後もし、当事者が出版したい本があって発起人になる時にクラファン開始のハードルが上がってしまう可能性があるため、「発起人の顔出し無し・本名出し無し」での実績を積みたいからです。クィアやトランスジェンダーをトピックとするSupportiveな書籍は、日本よりも海外(特に英語圏)で出版されている数が断然多いので、このプロジェクトの後に続くプロジェクトが今後、増えてくれればうれしいですね。


発起人・akipaka(アキパカ)
1980年代後半に予定よりも早産で関西に生まれ、小学校低学年頃から性別違和を感じ始めました。声変わりに絶望して自分の首を締めて一生傷になったり、自分の声への嫌悪から人生でカラオケにほぼ行ったこともなく、学校や地域の祭り・職場などでの男子ノリや猥談を理解できず嫌悪して周りから変人扱いされる等、「自分は普通の人間とは違うんだ」と思ってモヤモヤ生きてきた人です。身体的性別違和から家族の理解を得つつ、地方から東京のジェンダークリニックへ1年以上通って性別違和の診断を受けました。このアイコンは、家族が私に描いてくれたものです。
昼間は会社でデスクワークをしています(出版・翻訳関係ではありません)。英語は仕事と、クィアやトランスジェンダーの洋書を読む趣味で使う程度です。ちなみに、韓国語は勉強した経験がありません。