究極の有機農法ワイン作りの現場を描く
フランス発、ドキュメンタリー漫画の傑作
原作の情報
書名: Les ignornants – Récit d’une initiation croisée
著:エティエンヌ・ダヴォドー(Étienne Davodeau)
発行国:フランス
発行年:2011年
ジャンル:外国文学・コミック
ISBN:978-2-754803-82-3
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「ワイン造りには、葡萄や木よりも前に、土壌に注意を払わねばならない」

「ワインは、土壌と人を結びつける強くて不思議な絆なんだ」

「僕らの体に土壌を語り聞かせるワインを作っているのさ」

著:エティエンヌ・ダヴォドー(Étienne Davodeau)
フランスの漫画家。1992年「サルシエルの友達(Les Amis de Saltiel)」で漫画家デビュー。その後、小説やルポルタージュを漫画で表現する手法を取る。扱うテーマは、政治や歴史的に重要な人物、または現代の魅力溢れる人物など多種多彩である。2013年、代表作「素顔のルル(Lulu femme nue)」がソルヴェイグ・アンスパック監督により映画化される。その他、代表作に「田舎者! 政治的対立のニュース(Rural! Chronique d’une collision politique)」(2001), 「モージュの人々(Les Mauvaises gens)」(2005),「我らが幼少時代の愛しき国(Cher pays de notre enfance)」(ブノワ・コロンバ作、2015)などがある。本作「無知なる者たち」(2011)は、2012年のアングレーム国際漫画祭の公式セレクションにノミネートされ、世界的な知名度を得ることとなる。

過酷な有機農法によるワイン醸造家と
バンド・デシネ作家たちの出会い

 本作品はワイン造りの約一年を追ったドキュメンタリーで、小さなエピソードを積み重ねるように描かれている。本書のタイトルの直訳は「無知なる者たち」。これはワインに無知な漫画家の作者と、漫画には縁遠いワイン醸造家という二人の主人公が念頭に置かれている。副題には「相互教育の物語」とあるが、漫画家はワイン造りの現場を、ワイン醸造家は出版の現場を知ることにより感化を受け、世界を広げることを示唆している。

 フランス北西部のロワール地方。ワイン造りに興味を持った漫画家のエティエンヌ・ダヴォドーは、ワイン生産者のリシャール・ルロワに、一年間の密着取材を依頼する。エティエンヌがワイン造りを学ぶ代わりに、リシャールには出版界を案内するという代替案を提示。それが「相互教育」の道を拓くことになる。

 言うまでもなく、フランス・ワインの品質は世界最高峰を誇り、伝統の製法が今も息づいているが、一方で中小の生産者は、安価な新世界のワイン(チリ、アメリカ、オーストラリアなど)の台頭に苦戦を強いられている。大量生産するためには除草剤と農薬を大量に必要とするが、すると土地は荒れ、ワインの質は年々劣化する。それを補うためにワインに細工をする、という悪循環を生んでいる。

 そんな中、リシャールが実践するのは「ビオ・ディナミ農法」という有機農法の中でも過酷なもの、言わば自然との共存を図る農法だ。化学肥料も除草剤も一切使わず、瓶詰めの際に必要な保存料もゼロにする徹底ぶり。だがその現場は、まさに自然との格闘の場だ。エティエンヌは冬の剪定に始まり、春の棚づくり、夏の除草作業、夜中の肥料まきなど、葡萄栽培の熾烈な現場に身を置きながら、次第に自然、そしてワインを敬う気持ちが芽生えてくる。

 一方のリシャールは、エティエンヌから大量のBDを読むことを要請される。BDとは「バンド・デシネ(Bande dessinée)」の略称で、いわゆるフランス・ベルギーを中心とした地域の漫画のことである。日本語のニュアンスで理解される「漫画」とは異なり、フランスでは「9番目の芸術」と認識されるほど、社会性、芸術性に富んだ作品も多い。様々なBD作家たちとの出会いの機会を得ることで、リシャールもまた、抽象的な概念を具体的な絵で描く作業と、土地の様々なファクターをワインという生産物に仕上げることの共通性に気づくなどして、ワインが芸術であることの認識を深めていく。

 

 

100年後も同じ土からワインを作り
同じ味を楽しんでいる子孫を夢見て

発起人・監修:京藤好男より

 1990年代のイタリアに学んだ私にとって、当時のヨーロッパは繁栄の底に沈む暗部が次々と表面に浮かぶ季節だったと言えます。農業問題もその一つです。イタリアでは「ミツバチの大量死」が連日報じられ、フランスでは腕に先天性の障害を持って生まれる子の問題が謎のように語られ、イギリスからは「狂牛病」の脅威がもたらされていました。

 1960年代から1980年代のヨーロッパでは工業型農業が推進され、化学肥料や人工飼料、農薬や除草剤が大量に使用されました。その政策は豊富な収穫をもたらす一方、副作用は着実に蓄積され、やがて土壌汚染や健康被害に繋がります。私が目にしたものは、60年代以降の負の現実化と言えるでしょう。有名な『スローフード』という食の伝統を見直す運動が、80年代後半のイタリアに台頭するのも、この背景と無縁ではないのです。

 2000年代に入り、私はイタリア北部ピエモンテ州の若いワイン醸造家と知り合う機会を得ました。ワイン生産の名地に葡萄畑とワイン醸造所を構える彼は、アグリトゥーリズモという農業体験型ホテルの経営に乗り出そうとしていました。万全を期して、新たに購入した農地の土壌調査をすると、使用禁止の農薬が土に残っていることがわかったのです。それはワイン用の葡萄にも農薬が使われていたことを意味します。「ショックだった。ワインは土が作る。我々はこの土を守りたい。この土を健康に保ち、未来に持続させることが使命だと思う。だからいつも、どうやってこの自然と共に生きるか探しているんだ」こう話す彼の硬い表情が忘れられません。90年代末から有機農法がかなり浸透したイタリアでさえ、農薬や除草剤の問題の根深いことに改めて気づかされました。

 そんなある日「これには、僕と同じ思いが描かれている。読んでみてくれないか」と一冊の本を託されました。それが本書『ワイン知らずマンガ知らず・仮』との出会いです。原作はフランス語(本企画での邦訳は仏語版から行われます)。すでにフランスでは27万部の売上を記録するヒット作であり、イタリアでも翻訳版が出版されて話題を呼んでいたのです。そこには自然と共存するワイン造りの現場が生き生きと描かれていました。ある統計によれば、日本の耕地面積に対する有機農業取り組みの割合は0.5%(2017年)、イタリアのそれと比較して約30分の1。食品売り場を見渡せば、ほぼすべての農産物が農薬に依存している数値です。何度も読み返すうちに、この本を日本のワイン・ファンにも届けたいという思いが湧き上がってきました。ワインから農業問題を見直す視点があってもいいと。

 イタリア語版からの翻訳を済ませた私は、出版社数社で話を聞いて頂く機会を得ましたが、なかなか前向きな返事は頂けませんでした。諦めかけたとき、サウザンブックス社のサービスに出会いました。幸運なことに、フランス語圏の漫画「バンド・デシネ」の専門家・原正人さんが、海外漫画のレーベルを立ち上げたという心強い環境がありました。大げさかもしれませんが、本書が日本の「土」に根付くならば、ここが約束の地に違いないとの思いに包まれました。スタッフの方々と話し合いを重ね、このクラウドファンディングに辿り着いた今、その思いは益々強まっています。

 本書はすでに13カ国で翻訳出版され、各国で成功を収めています。ぜひ日本でも出版を実現し、一人でも多くの方と本書の魅力を共有できれば幸いです。



〈サウザンコミックスについて〉
サウザンコミックスは、世界のマンガを翻訳出版するサウザンブックス社のレーベル。第1弾のダヴィッド・プリュドム『レベティコ―雑草の歌』は、2019年11月から2020年2月にかけてクラウドファンディングを行い、2020年秋に翻訳出版されました。2020年11月末から2021年2月にかけてクラウドファンディングを行った第2弾MK・サーウィック『テイキング・ターンズ HIV/エイズケア371病棟の物語』も無事成立し、出版準備中です。北米のコミックス、フランス語圏のバンド・デシネを始め、アジア、アフリカ、南米、ヨーロッパ……と世界には魅力的なマンガがまだまだたくさんあります。このレーベルでは世界の豊かなマンガをどんどん出版していきます。

京藤好男(きょうとうよしお)
1994年東京外国語大学イタリア語学科卒業(文学士)。1995年 文部省派遣留学生としてイタリア国立ヴェネツィア大学文哲学部留学。1997年 東京外国語大学大学院地域文化研究科欧州第一専攻言語文化コース修了(文学修士)。イタリア文学専攻。ワインについては滞在期間中、ヴェネト州のヴェローナ、ピエモンテ州のランゲ、トスカーナ州のモンタルチーノなど、ワイン名産地の人々と親交を持ち、見識を広める。
現在、慶應義塾大学、法政大学、武蔵大学、武蔵野音楽大学で講師を務めるほか、2006-2008年にNHKラジオ『イタリア語講座』、2007年と2017-19年にNHK『テレビイタリア語会話』で講師を務めるなど、様々なメディアで講師活動をしつつ、ワインや食を始めとするイタリア文化の普及に努めている。著書に『指せば通じる旅のらくらく会話 イタリア』、『文法から学べるイタリア語』(共にナツメ社)、『中級へのイタリア語文法』(三修社)、他多数。2021年3月からオンライン専用イタリア語スクール「TERRA」の代表を務める。