自分は自分のままでいい
自閉症スペクトラム障害の男の子の自立の物語
書名:Kids Like Us
著:Hilary Reyl
発行国:アメリカ
発行年:2017年
ジャンル:ノンフィクション(ヤングアダルト)
ISBN:978-0-374-30628-1
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「僕らはみんな?『僕ら』は誰を指しているの?マーティン」

「自閉症者のことだよ。自閉症が、この世界での自分の存在の仕方だと思っている自閉症者の人たちだ。ゲイの人たちも同じだ。ゲイも自閉症も障害でも病気でもないんだ。『治療』するという考え方に抵抗を示している人たちもいる。『治療』するっていうのは、僕らの根底の部分を否定するものだってレイラが言っていたよ。」

「つまり、あなたはずっと自閉症でいるってことね?」

母さんの顔が険しくなった。目には涙が溢れた。

「でも母さんはね、ずっと頑張ってきたのよ…」

母さんの声は細く小さくなった。彼女は早口でいろいろまくしたてたくないようだった。少々問題が複雑過ぎるし、僕のことを傷つけたくないのだろう。

「あなたのアイデンティティの一部であるということは、素晴らしいと思うの…。私たちはみんなあなたが幸せであって欲しい。何かを強制することはしたくないわ。でも、幸せになる力をつけて欲しい。そのための道具を与えていきたいの…」

作者:Hilary Reyl (ヒラリー・レイル)

フランス文学で博士号を取得。著書に『Lessons in French』がある。本書は彼女自身の自伝ではないが、彼女の生活(ロマンス、友情、家族)から大きなインスピレーションを得て創作された。自身が数年をパリで過ごした経験が作品に大きな影響を与えている。

「普通」とは何か?
高機能自閉症の高校生マーティンの恋

『Kids Like Us』は、2017年に発刊されたヤングアダルト向け小説であり、高機能自閉症(自閉症スペクトラム障害)の高校生の男の子、マーティンが主人公の物語だ。マーティンは普段はロサンゼルスの「特別な」学校に通っているが、映画監督である母親の仕事にくっついて、夏休みをフランスの田舎町で過ごすことになる。

マーティンは生まれて初めて「普通の高校」に通い、そこで出会ったフランス人の女の子に電撃的に恋に落ちる。そして、とても独特な方法で彼女を想い慕うのだ。彼はプルーストの「失われた時を求めて」を愛読しており、自分を取り巻く世界の多くをこの作品の文脈と結びつけて解釈しようとする。最初の頃は、恋に落ちた彼女も、周りにいる「普通の友達」も、プルーストの物語の世界の中から見た「空想」の一つだった。しかし次第に、彼はそれが空想ではなく、生身の人間であることに気づき始めるのだ。

それはマーティンにとっては衝撃的な気づきだったに違いない。それまで自閉症スペクトラム障害として生きてきたマーティンに、数々の葛藤が生まれる。マーティンは両親に幼少の頃から数々の療育を施されてきたが、それにどのような意味があったのか。「自閉症」は治すべきものなのか。なぜ自分に「普通の友達」ができると、母親が喜ぶのか。果たして自分は一体何者なのか。

思春期を迎えた自閉症スペクトラム障害の高校生の、瑞々しくも胸が詰まるような心の揺れ。最終的に、マーティンはフランスでのさまざまな葛藤や交流、そして故郷ロサンゼルスの「特別な」学校の友人たちとのやり取りを通して、「自分は自分のままでいいのだ」という答えを見出していく。




自閉症スペクトラム障害の子供が自立へと向かうとき


発起人 林 真紀より

自閉症スペクトラム障害のお子さんを育てる親御さんが、口を揃えて言うこと。

「この子はどんな思春期を迎えていくのか。やがてどんな大人になっていくのか。」

子どもが自閉症スペクトラム障害という診断がおりてから、様々な療育を施した方も沢山いることでしょう。特に幼児期は、病院や療育施設で様々な療育が準備されているため、親子共々忙しい日々をおくるかもしれません。そして幼児期の療育が終わると、今度は学校に入り、学習支援に走り回る日々が始まります。そうこうしているうちに、子どもはあっという間に育ちます。親御さんのほうも悩んだり不安になったりすることもあるでしょうけれども、この時期は割と明確な「支援」の形が見えています。

けれども、その先は…?

その先、つまり、自閉症スペクトラム障害の子供が自立へと向かい始める「思春期」以降のヴィジョンが、なぜかぽっかりと空白になってしまうのです。

恋をしたり、「友情」を築いたり、あるいは自分の才能や将来の夢について考えを巡らせたり、そんな思春期の子供たちの毎日を、自閉症スペクトラム障害の子供たちがどのように迎え、感じていくのか。それが見えてこない不安を抱えながら、とにかく幼少期の療育と支援に奔走せざるを得ない親御さんがなんと多いことか。親御さんにとっては、その先は荒野に投げ出されるかのような不安感をおぼえるに違いありません。私自身もそうでした。自閉症スペクトラム障害と診断された我が子の将来への不安ばかりが先に立ち、幼少期は「療育博士」のようになっていました。通常の幼稚園生活に加え、言語療法、作業療法、音楽療法、運動療育、そして家庭療育…。我が子も私も休む暇は全くありませんでした。ある日、我が子に「僕、疲れた。ママといるときは、もっとゆっくりしたい」「自分が『できない子』だと思うのはもう嫌」と言われたとき、「自分は一体何をやっているのだろう」と立ち止まることになりました。子どもの将来のためにはどうすることが良かったのか、私は一体我が子にどうなってもらうことを目指していたのか、その答えがまるで見えないままに子育てをすることは、本当に辛いことでした。

どんな子育てだって、正確な航海図を描き出すことは難しいですよね。それが自閉症スペクトラム障害の子どもの子育てであればなおこと。

そんな親御さんたちのたくさんの声が、この本を翻訳しようという私の気持ちを後押ししました。どちらかというと使命感に近いです。特に、暗中模索の状態で療育や支援に駆け回っている親御さんへ。ぜひ本書の翻訳出版プロジェクトをご支援ください。マーティンが最終的に「自分は自分のままでいいのだ」と受け入れることができたように、きっと読み終わった後に、「私は私のままで、我が子は我が子のままでいいのだ」と思うことができます。この読後感、ぜひ味わってみてください。思い描く未来が、いつの間にか優しい色合いに変わっていることに気づくはずです。

発起人:林 真紀(はやし まき)
翻訳者/ライター。慶應義塾大学環境情報学部卒。一橋大学大学院社会学研究科で社会学修士を取得。オンサイト翻訳者として7年勤務した後、独立。産業翻訳や委託調査に取り組むかたわら、LITALICO「発達ナビ」のトップライターとして、発達障害に関するコラムを連載。その他、ADHD当事者に向けたマニュアル本なども執筆。

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