表情豊かな美しい絵で描かれた
人魚になりたかったぼく、ジュリアンの物語
書名:Julian Is a Mermaid
著:Jessica Love
発行国:アメリカ
発行年:2018年
ジャンル:フィクション(絵本)
ISBN:978-0763690458
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「ぼくも 人魚なんだ」

文・絵:ジェシカ・ラブ(Jessica Love)
芸術家の両親のもと、南カリフォルニアで育つ。小さいころから絵を描いたり物語を作るのが好きだった。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で版画制作とイラストレーションを学んだのち、演劇を学ぶためジュリアード・スクール(日本ではジュリアード音楽院として知られている)へ進んだ。ニューヨークの舞台に13年立つなかで絵本制作をはじめた。絵本作りは、芝居を演出し、すべての役をひとりで演じるように感じたという。ニューヨーク、ブルックリン在住。

ありのままの自分を認めてもらう喜びにあふれた作品

 おばあちゃんと行ったプールの帰り道、ジュリアン少年は地下鉄に乗っていました。人魚が大好きなジュリアンは、おしゃれな人魚の格好をしている女性3人に見とれて、おばあちゃんに打ちあけます。「ぼく、人魚なんだ」。たちまちジュリアンは想像の世界へ入りこみ、人魚になりました!
 おばあちゃんに声をかけられ想像の世界からもどったものの、ジュリアンは家に帰るなり身近な物をつかって人魚に変身して満足します。けれど、おばあちゃんには不評のようで、ジュリアンはがっかり。「ぼく、人魚の格好をしちゃいけないのかな……?」
 ところが、人魚の姿のまま外へ出ようとおばあちゃんに誘われ、おっかなびっくり出かけてみると、さきほど見かけた人魚姿のお姉さんたちをはじめ、海の生き物に扮した色鮮やかな人たちのパレードが! そこでジュリアンは……。

【作品の背景と魅力】
 ニューヨークのコニーアイランドで毎年行われるパレードが舞台です。おばあちゃんとふたりで行動していることから共働き世帯を想像させます。
 本作の主要テーマはLGBTQであるとともに、ジェンダーにとらわれない、自分の気持ちを大切にすることが描かれています。また、ジュリアンが想像のなかで人魚になる場面をはじめとする色鮮やかで美しい絵が本書の最大の魅力といえます。
 作者のジェシカ・ラブはニューヨーク在住のイラストレーターであり、俳優でもあります。本作は、50代になってからトランス移行された友人との会話をきっかけに生まれたそうです。人魚はトランス・アイコンとされているとか。また、はじめての絵本作りに試行錯誤するなかで、主人公ジュリアンの肌色に合うようにと、白い紙ではなく茶色のクラフト紙を選んだと語っています。
 ウェブサイトJessica Loveには、"Julian Is a Mermaid" のイラストがたくさん掲載されています。

元記事:Trans kids’ book ‘Julian is a Mermaid’ is winning hearts and awards
イギリスのケイト・グリーナウェイ賞ショートリストに選ばれた際のインタビュー動画:https://vimeo.com/333003147



【受賞歴】
アメリカ)
LGBTをテーマにした作品に贈られるストーン・ウォール賞大賞受賞
その年にデビューした絵本作家・画家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の画家部門オナー
ボストングローブ紙2018年ベスト
パブリッシャーズウィークリー紙記事"Booksellers' Favorite Titles of 2018" 1位
イギリス)
子どもたちが選ぶCHILDREN’S & TEEN CHOICE BOOK AWARDSオナー(幼稚園から2年生までの部)
ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト
ウォーターストーンズ児童文学賞ショートリスト
Klaus Flugge Prize大賞受賞
イタリア)
ボローニャ・ラガッツィ賞オペラプリマ部門受賞
スペイン)
大手新聞「El pais」紙の2018年ベスト児童書の1冊に選出



最小限の言葉で語られ、表情豊かなすばらしい絵で描かれた絵本

発起人 横山和江(子どもの本の翻訳者)より

 わたしはよく「ひとめぼれ」(直感)した作品を出版社へ持ち込みをするのですが、"Julian Is a Mermaid" もまさに、ひとめぼれでした。主人公のジュリアンはもちろんのこと、おばあちゃんや町の人びとが生き生きと描かれていてとても魅力的なのです(翻訳者なのに語彙が乏しくすみません)。画像で見るよりざらりとした紙に印刷された絵の方がはるかに素敵なので、ぜひ実物を手にしていただきたいです。

 地の文を最小限にして絵で語るスタンスに潔さを感じるとともに、主人公のジュリアンが人魚になりきりポーズを決めている姿が、我が子のささやかな思い出と重なりました。20年近く前、7歳の七五三用にと義母がお古の着物を娘に着せてくれたとき、当時3歳の息子は当然のように「着物を着たい!」と主張。すると義母は娘が3歳のときに着た着物を出してきて息子に着せてくれたのです。もちろん息子は大喜びして記念に姉と写真を撮りました。「男の子は袴でしょ」といわずに息子の願いを叶えてくれた義母はもうこの世にいませんが、今でも感謝しています。

 "Julian Is a Mermaid"はトランスジェンダーをテーマにしていると同時に、「大好きな人魚になれてよかったね!」とジュリアンを祝福するシンプルな物語でもあるところに惹かれます。幸せに満ちた作品を、ぜひお手元に、そして図書館や学校にも置いていただけたらと願っています。

 2006年のデビュー以降、子どもの本一筋に翻訳をつづけてきました。訳書は我が子のように大切なので、今作業をしている作品が一番だと思い愛情をかけて取り組んでいます。本作を日本の読者にどうしても届けたいと思い、クラウドファンディングへの挑戦を決心しました。

 出版社へ持ち込みすればいいのにと思われるでしょうが、本書を評価してくださる編集者さんには出会えたものの、会社として刊行するには「売れるのか」「置く棚が難しい」などなど、いくつものハードルがあり刊行に至りませんでした。本書の特徴のひとつに文章の少なさが挙げられますが、行間を読む味わいがある一方で、子どもにはわかりにくいという指摘もありました。とはいえ絵本は想像力が命です。ジュリアンの想像の世界を楽しめるようにと凝縮させた文章の背景にあるものを感じながら、存分に楽しんでいただけるのではと自負しています。

横山 和江 (よこやま かずえ)
埼玉県生まれ、山形市在住。訳書に『わたしの心のなか』『キツネのはじめてのふゆ』(ともに鈴木出版)、『フランクリンの空とぶ本やさん』(BL出版)、『わたしたちだけのときは』(岩波書店)、『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート』(あすなろ書房)、『クマさんのいえへいかなくちゃ!』(徳間書店)、『ねこの3つのねがいごと』(岩崎書店)『ノラのボクが、家ネコになるまで』『家ネコのボクが、にんきものになるまで』(ともに文研出版)などがある。10月から「べネベントの魔物たち」シリーズ(偕成社)が順次刊行。やまねこ翻訳クラブ会員。

Twitter:@SUGO_ohanasi
やまねこ翻訳クラブ作成訳書リスト:横山和江(よこやま かずえ)訳書リスト
インタビュー記事(やまねこ翻訳クラブ内):この人に聞きたい! やまねこ会員インタビュー●第3回 横山和江さん