表情豊かな美しい絵で描かれた
マーメイドになりたかったぼく、ジュリアンの物語
書名:ジュリアンはマーメイド
文・絵:ジェシカ・ラブ
訳:横山和江
発行年:2020年6月
ジャンル:フィクション(絵本)
仕様:A4変型判/36ページ/上製
ISBN:978-4-909125-19-4

試し読みはこちらから

姉妹編『ジュリアンとウエディング』出版クラファン実施中

「あのね、おばあちゃん。ぼくもマーメイドなんだ」

文・絵:ジェシカ・ラブ(Jessica Love)
ニューヨーク、ブルックリン在住。芸術家の両親のもと、南カリフォルニアで育つ。小さいころから絵を描いたり物語を作るのが好きだった。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で版画制作とイラストレーションを学んだのち、演劇を学ぶためジュリアード・スクールへ進む。ニューヨークの舞台に13年立つなかで絵本制作をはじめた。デビュー作の本書で、ストーン・ウォール賞、ボローニャラガッツィ賞オペラプリマ部門受賞など、数々の賞に選ばれる。

ありのままの自分を認めてもらう喜びにあふれた作品

 おばあちゃんと行ったプールの帰り道、ジュリアン少年は地下鉄に乗っていました。マーメイドが大好きなジュリアンは、おしゃれなマーメイド姿の女性3人に見とれて、おばあちゃんに打ちあけます。「ぼく、マーメイドなんだ」。たちまちジュリアンは想像の世界へ入りこみ……おばあちゃんに声をかけられ想像の世界からもどったものの、ジュリアンは家に帰るなり身近な物をつかってマーメイドに変身します。けれど、おばあちゃんには不評のようで、ジュリアンはがっかり。「ぼく、マーメイドの格好をしちゃいけないのかな……?」
 ところが、そのまま外へ出ようとおばあちゃんに誘われ、おっかなびっくり出かけてみると、さきほど見かけたお姉さんたちをはじめ、海の生き物に扮した色鮮やかな人たちのパレードが! そこでジュリアンは……。

【作品の背景と魅力】
 ニューヨークのコニーアイランドで毎年行われるパレードが舞台です。
 本作の主要テーマはLGBTQであるとともに、ジェンダーにとらわれない、自分の気持ちを大切にすることが描かれています。また、ジュリアンが想像のなかでマーメイドになる場面をはじめとする色鮮やかで美しい絵が本書の最大の魅力といえます。
 作者のジェシカ・ラブはニューヨーク在住のイラストレーターであり、俳優でもあります。本作は、50代になってからトランス移行された友人との会話をきっかけに生まれたそうです。マーメイドはトランス・アイコンとされているとか。また、はじめての絵本作りに試行錯誤するなかで、主人公ジュリアンの肌色に合うようにと、白い紙ではなく茶色のクラフト紙を選んだと語っています。
 ウェブサイトJessica Loveには、"Julian Is a Mermaid" のイラストがたくさん掲載されています。

元記事:Trans kids’ book ‘Julian is a Mermaid’ is winning hearts and awards
イギリスのケイト・グリーナウェイ賞ショートリストに選ばれた際のインタビュー動画:https://vimeo.com/333003147



【受賞歴】
アメリカ)
LGBTをテーマにした作品に贈られるストーン・ウォール賞大賞受賞
その年にデビューした絵本作家・画家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の画家部門オナー
ボストングローブ紙2018年ベスト
パブリッシャーズウィークリー紙記事"Booksellers' Favorite Titles of 2018" 1位
イギリス)
子どもたちが選ぶCHILDREN’S & TEEN CHOICE BOOK AWARDSオナー(幼稚園から2年生までの部)
ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト
ウォーターストーンズ児童文学賞ショートリスト
Klaus Flugge Prize大賞受賞
イタリア)
ボローニャ・ラガッツィ賞オペラプリマ部門受賞
スペイン)
大手新聞「El pais」紙の2018年ベスト児童書の1冊に選出



最小限の言葉で語られ、表情豊かなすばらしい絵で描かれた絵本

発起人 横山和江(子どもの本の翻訳者)より

 わたしはよく「ひとめぼれ」(直感)した作品を出版社へ持ち込みをするのですが『ジュリアンはマーメイド』 もまさに、ひとめぼれでした。主人公のジュリアンはもちろん、おばあちゃんや町の人びとが生き生きと描かれていてとても魅力的なのです。紙に印刷された絵がとても素敵なので、ぜひ実物を手にしていただきたいです。

 地の文を最小限にして絵で語るスタンスに潔さを感じるとともに、主人公のジュリアンがマーメイドになりきりポーズを決めている姿が、我が子のささやかな思い出と重なりました。20年近く前、7歳の七五三用にと義母がお古の着物を娘に着せてくれたとき、当時3歳の息子は当然のように「着物を着たい!」と主張。すると義母は娘が3歳のときに着た着物を出してきて息子に着せてくれたのです。もちろん息子は大喜びして記念に姉と写真を撮りました。「男の子は袴でしょ」といわずに息子の願いを叶えてくれた義母はもうこの世にいませんが、今でも感謝しています。

 本作はトランスジェンダーをテーマにしていると同時に、「大好きなマーメイドになれてよかったね!」とジュリアンを祝福するシンプルな物語でもあるところに惹かれます。幸せに満ちた作品を、ぜひお手元に、そして図書館や学校にも置いていただけたらと願っています。

 そうそう、ジュリアンが登場するほかの作品も読んでみたいと思いませんか? 実は今秋、"Julian at the Wedding"が刊行されます。おばあちゃんとふたりで結婚式に出席したジュリアンは、おばあちゃんの友だちが連れてきた少女と出会い……さて、ジェシカ・ラブはどんなお話を紡いだのでしょう。
Penguin Random House "Julian at the Wedding"

横山 和江 (よこやま かずえ)
埼玉県生まれ、山形市在住。訳書に『キャラメル色のわたし』(8月刊行予定)『山は しっている』(ともに鈴木出版)、『ほしのこども』(7月刊行予定)『わたしたちだけのときは』(岩波書店)、『きみの声がききたくて』(7月刊行予定)『おもいではきえないよ』(ともに文研出版)、『サディがいるよ』(9月刊行予定、福音館書店)、『フランクリンの空とぶ本やさん』(BL出版)、『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート』(あすなろ書房)、「べネベントの魔物たち」シリーズ(偕成社)がある。やまねこ翻訳クラブ会員。

Twitter:@SUGO_ohanasi
やまねこ翻訳クラブ作成訳書リスト:横山和江(よこやま かずえ)訳書リスト
インタビュー記事(やまねこ翻訳クラブ内):この人に聞きたい! やまねこ会員インタビュー●第3回 横山和江さん