親友の死による深い傷を抱えた男と謎の少女との出会い
オランダ女性作家の鮮烈デビュー作
書名:De terugkeer van de wespendief(ハチクマの帰還)
著:Aimée de Jongh(エメー・デ・ヨング)
発行年:2014年
仕様:168ページ/1色
ジャンル:単行本・グラフィックノベル・フィクション
ISBN:978-9492117656

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真実なんか教えるものか。

僕は自分にそう言い聞かせてきた。

でも、時間が経つにつれ、僕はだんだんこう考えるようになった。

僕は真実を伝えるべきだったんじゃないかって。


著:エメー・デ・ヨング(Aimée de Jongh)
1988年オランダ生まれ。ロッテルダムの「ウィレム・デ・コーニング・アカデミー(Willem de Kooning Academy)」でアニメーションの学位を取得後、22歳の時から新聞連載にてグラフィックノベルの執筆を始める。これまでに、オランダ国内外で数々の漫画賞を受賞し、オランダで今最も才能のあるグラフィックノベル作家と評される。外務省主催の日本国際漫画賞においても、第12回で『身体の老いとともに感情もまた老化する(Bloesems in de herfst)』が優秀賞、第15回で『砂の日々(Dagen van zand)』が最優秀賞と、2度受賞している。

ある事件を目撃したことがきっかけで、抑圧されていた子供時代のトラウマに向き合うことになる主人公。
謎の少女との出会いの末に、彼が辿り着いた場所とは…。

主人公のシモンは、本が売れない時代の流れに逆らえず、父親から受け継いだ大切な本屋を閉じようとしている。そんなある日、自殺をするために線路に侵入してきた女性を目撃してしまい、この出来事を引き金に、蓋をしていた過去のトラウマが蘇る。

シモンは中学生の時に、同級生からいじめを受けていた親友を、不慮の事故でなくしていた。親友の死の真相を知りながら、ずっとそのことに蓋をして生きてきたシモン。女性の自殺を目撃した日を境に悪夢を見るようになり、ついには人生ごと飲み込まれそうになってしまう。

ある雨の夜、シモンはひとりの謎めいた少女と出会う。彼女との交流を通して心の平穏を得るようになるシモンだったが、彼女はいったい何者なのだろうか……。妻と共に新たなスタートを切ることで、シモンはこの世界を生き延びる道を歩み始める。

オランダのテレビ局でドラマ化されるなど反響の大きかった作品。出版翌年の2015年にベルギーの歴史あるマンガ賞サン=ミシェル賞(Prix Saint-Michel)で、最優秀オランダ語圏作品賞を受賞している。








リアリスティックで緊張感のある白黒の画で描かれた作品。説得力のある語りのリズムと相まって、読者を主人公シモンの内面世界に入り込ませる。



『ハチクマの帰還』タイトルの由来について
本書のタイトルにもなっている「ハチクマ」についても少しご紹介しておきたいと思います。ハチクマは渡り鳥で、主にハチを餌にすることからその名前がつきました。夏はヨーロッパで過ごし、冬になるとアフリカへ渡ります。特徴的なのは、ハチクマのつがいが必ず別々のルートで長い渡りをすることです。ハチクマと作品がどう関わってくるのか、ぜひ注目してお読みいただきたいと思います。


オランダのグラフィックノベルについて
マンガの盛んな国であるフランスとベルギーに挟まれてなかなか目立ちませんが、オランダ語圏(オランダとベルギーのフランドル地方)にも素晴らしい作品を発表している作家がたくさんいます。国際的なマンガ賞を受賞する作家も輩出しています。もともとアートとデザインの伝統のあるオランダですが、マンガ界では小国です。マンガ家としてやっていくためには、国際的な成功を収める必要があります。そのため、初めから海外の出版社から英語やフランス語で作品が出版されるケースも多いのですが、実は作者はオランダ人だったということがあります。オランダの作家がもっと自国の出版社からオランダ語で作品を発表できるようになればいいなと思っています。


〈サウザンコミックスについて〉 サウザンコミックスは、世界のマンガを翻訳出版するサウザンブックス社のレーベル。北米のコミックス、フランス語圏のバンド・デシネを始め、アジア、アフリカ、南米、ヨーロッパ……と世界には魅力的なマンガがまだまだたくさんあります。このレーベルでは世界の豊かなマンガをどんどん出版していきます。


海外マンガ好きの皆さん、オランダにもすごい作家がいます!

発起人・翻訳:川野夏実(かわの・なつみ)より

海外マンガファンの皆さん、オランダ発のプロジェクトということでご興味を持ってくださった皆さん、こんにちは。オランダで暮らしながら、オランダのグラフィックノベルを日本で翻訳出版するために活動している川野夏実と申します。

オランダ語を勉強して翻訳家になりたいと思った学生時代、当時はオーソドックスに小説や児童文学、絵本などを探して出版社に持ち込むということを繰り返していました。しかし、出版不況のご時世で夢は夢のまま、あっという間に年月は過ぎ去っていきました。日々の仕事と子育てに追われ、翻訳家の夢にだいぶ埃がかぶっていた時、ある方から「グラフィックノベルを訳してみませんか」と声をかけてもらいました。その時は「えっ、グラフィックノベルって何?」と思いつつも、「やります!」と二つ返事し、ゴッホの生涯をテーマにした作品『ゴッホー最後の3年ー(花伝社)』で念願だった翻訳家デビューを果たすことができました。

これが私とオランダのグラフィックノベルの出会いです。他にはどんな作品があるのか、探して読んでいくうちに、すっかりグラフィックノベルの魅力に取り憑かれてしまいました。日本に是非紹介したいお気に入りの作品にいくつも出会うことができました。

ところが、「訳書が一冊あれば、それが名刺になって次の本が出せるよ」と聞いていたはずが、「どうも、そうじゃないぞ」ということが次第にわかってきました。出版不況に円安も重なって、翻訳出版を取り巻く状況は厳しさが増す一方。そもそも知名度のないオランダのマンガは、出版社からしても読者が見込めません。持ち込めど持ち込めど、ボツになって溜まっていく企画書。オランダには才能に満ちた個性的で素晴らしいマンガ作品がたくさんある。中国や韓国では翻訳出版されているのに、日本の読者に受け入れられないはずがない。このまま諦めたくないと覚悟を決め、今回、サウザンブックスさんの力を借りて、クラウドファンディングに挑戦することにしました。

オランダのマンガの凄さを日本の皆さんに知ってもらいたい。その代表として、今回、選んだのがエメー・デ・ヨングの『ハチクマの帰還』です。はじめて読んだ時、決して長くない白黒マンガでありながら、まるで一本の重厚な映画を見せられたような読後感で、その情熱と技量に圧倒されました(そして、調べるとやはりオランダでテレビ映画化されていて納得)。彼女の他の作品もそうですが、エメーは一流の脚本、監督、カメラワークが一体となった仕事をひとり紙の上でしています。これから、ますます国際的に評価されていく作家になることでしょう。

輝かしい経歴を重ねて順風満帆に見える彼女ですが、マンガ弱国のオランダにおいてマンガ家という職業で食べていくことは大変です。SNSでエメーが「今日は教育文化省にマンガ家支援の嘆願書を持っていった」「マンガ家として生活しているなんてすごいね、と人からは言われるけど、実際の仕事はメールの返信が大半だ」などと発信しているのを見ると、私も彼女のいちファンとして、マンガ大国である日本への翻訳出版を通して、その活動を応援したい気持ちになります。

kawano発起人・翻訳:川野夏実(かわの・なつみ)
宮崎県出身。オランダ生まれのミッフィーと語学が好きで、大学ではオランダ語を勉強しようと思い立ったのですが、当時、日本の大学でオランダ語を専攻できるところがありませんでした。結局、大学では2番目に勉強したかった韓国語を専攻することにしましたが、オランダへの思いを捨てきれず、大学を休学し、オランダのライデン大学オランダ学科に留学しました。それまで優等生で、勉強で落ちこぼれた経験がなかった私は、大学の授業についていけないことに相当なショックを受けました。呪われたように必死で勉強していたあの暗黒時代は今でも思い出すと苦しくなりますが、同時に、翻訳家になるという希望を見つけることにつながりました。現在までオランダに暮らし、日本語教師として教えるようになって随分経ちますが、あの頃の思いを再び胸に、オランダ語圏のグラフィックノベルを日本に紹介するべく奮闘しています。訳書に『ゴッホ最後の3年』(2018年、花伝社)『小さなベティと飛べないハクチョウ』(2022年、花伝社)。
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