円卓の騎士ガウェインが、謎に満ちた探求の旅へ――
アーサリアンポップの傑作が今、蘇る
書名:五月の鷹(The Hawk of May)
著:アン・ローレンス
発行国:イギリス
発行年:1980年
ジャンル:フィクション
ISBN:978-0-333283-96-7
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「ガウェイン卿、先へいかれよ」

男の声は木々のあいだをうなりをあげて吹き抜ける風のようだった。

「わしが待っているのはあなたではない」

風変わりな森の主は空き地の向こう側を指差した。

著:Ann Lawrence(アン・ローレンス)
1942年イギリス生まれ。サウサンプトン大学卒業。英国鳥類保護協会等で働いた後、教師となり、70年代から物語を書きはじめた。歴史的題材にテーマをとって独自の物語世界を構築するのを得意とした。1981年のガーディアン賞次席に『五月の鷹』が選出され、その将来をおおいに嘱望されたが、1987年、数年間の闘病生活の後、44歳の若さで生涯を閉じた。(『五月の鷹』福武書店刊より)

助かるための唯一の道は、
「すべての女性が最も求めるもの」を見つけ出すこと

時は、アーサー王の治世。
ある若い騎士が、旅の途中で霧に迷い、行き着いた館で一夜の宿を求める――。

その騎士の名は、ガウェイン。
アーサー王の甥で円卓の騎士の一人でもある彼は、年若くも勇敢で思いやり深く、礼儀正しい騎士として、国中の人々から愛されていました。ところが、彼がアーサー王のもとへと戻った後のある日のこと。館の主人グリムが王宮の大広間に現れ、ガウェインを、身に覚えのない罪で糾弾したのです。

自らの疑いを晴らすため、神聖裁判(=与えられた試練に耐えることで、身の潔白を証明する)を受ける彼が探し求めることになるのが、「すべての女性が最も求めるものは何か」という問いの答えでした。与えられた期限は、一年間。それまでに、なんとかして正しい答えを見つけなければなりません。そこで、ガウェインは自ら探求の旅に出て、旅先で出会う人々に、この問いを投げ掛けることにしたのでした。

「嘆くことはない、ガウェイン。なにごとも起こるべくして起こるのだ」

この物語では、美しい情景や不思議な出来事、人々の暮らし、季節の変化を織り交ぜながら、彼の旅の様子が描かれていきます。多くの出会いと別れ。様々に違っていて、時として互いに矛盾しあう答えの数々――。

やがて四季が巡り、宮廷へと舞い戻ったガウェインは、一体どのような答えを披露するのか。
無事に、正しい答えを見つけることができたのか。
物語が、どのような結末を迎えるのか――それは、読んでからのお楽しみです。


クールだけどキラキラした王子系騎士ガウェインが、
地の文で見せる素顔のギャップがたまらない!

発起人:『五月の鷹』応援団 シオンより

私がこの本と出会う切っ掛けとなったのは、とある本に書かれていた、たった63文字の紹介文でした。それは、『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』という本に載っていた、山田攻先生による「おすすめのアーサー関連タイトル」と「その理由」についての回答※です。

アン・ローレンス『五月の鷹』
「古典を題材にしたアーサリアンポップの傑作。登場人物がみなキャラ立ちして生き生きしている。アーサー王文学の入門編としてもおすすめ」


(※岡本広毅・小宮真樹子編『いかにしてアーサー王は日本で受容されサブカルチャー界に君臨したか』みずき書林、2019 執筆者たちの円卓の左ページ)

これを読んだ時、私がまず何よりも惹かれたのは、この作品のタイトルでした。五月の鷹! なんと、爽やかで心躍る響きでしょう。私は、この『五月の鷹』というタイトルの響きや、「生き生きしている」登場人物たち、そして「入門編」との言葉に心をくすぐられて、この本のことを調べ始めたのでした。

ところで、『五月の鷹』は英国の作家アン・ローレンスが、いわゆるアーサー王物語の作品を下敷きに生み出した物語ですが、実は、元となった作品からはかなり大胆なアレンジが加えられています。そのことを、この物語を翻訳された斎藤倫子先生が、本書のあとがきでまさしく言い表されていますので、ここに引用します。

「アーサー王伝説に出てくる様々な登場人物やエピソードを自由自在に操り、自分の色に染めて、いかにも楽しんで作り上げたということが手に取るようにわかります」
「作者自身が楽しんで――ほとんど遊びごころといってもいい感覚で――、書いたもののように思えてなりません。」
(※『五月の鷹』福武書店刊あとがきより)

この作品において、ガウェインに向けられた疑惑や彼の置かれた状況はかなりシビアなものですが、物語そのものの語り口が柔らかいためか、それほど重苦しさを感じません。作中にはユーモラスな場面も多く、読んでいると自然とページを手繰りたくなるような心地よさがあります。そして、この物語には多くの登場人物が出てきますが、アン・ローレンスはその伸びやかな筆致で、彼らを実に生き生きと描いています。
例えば、ガウェインとは従兄弟に当たるイウェインや、おっちょこちょいだが愛嬌のあるパーシー(パーシヴァル)、ガウェインの弟のアグラヴェイン、ガヘリス、ギャレスは、それぞれに性格も考えも全く違っており、同じことをするにもそれぞれが違うやり方で(しかも、時には思いもよらぬ方法で)やろうとします。或いは、アーサー王やグウィネヴィア王妃、ケイやべドヴィアは、それぞれの立場や事情から完全な味方にはなれないものの、言葉や態度から、ガウェインのことを本当に心から気にかけていることが窺えます。宮廷の人々や旅先で出会う人々などは、必ずしもガウェインの味方になってくれるわけではありませんが、ガウェインの旅する世界に精彩を与え、豊かなものとしています。誰しもが、ガウェインの旅を導いてくれる存在でもあるのです。

そして、それから更にもう一つ。この作品を語る上で、何をおいても外せないポイントがあります。それは、この作品にはガウェインの魅力がたっぷりとつまっているということです。その魅力を全て語り尽くすには、いくら紙幅があっても足りません。それでも敢えて、私の思いを表現すると、こんな風になります。

「クール系だけどキラキラした王子系騎士ガウェインが、地の文で見せる素顔のギャップがたまらない!」

作中で語られる、世間でのガウェインの評判は「勇敢で、思いやりがあり、礼儀正しい」というもので、そして実際、彼はそのような人物として描かれています。また、ガウェインは結婚観も含めてかなりクールな考え方を持っていて、自分が女性からたびたびアプローチを受けることに関しても、自分がアーサー王の甥だからだと信じて疑いません(実際は、それだけではないと思うのですが…)。不思議と鷹揚なところがあるのに、それでいて、周りの人々のことにはよく注意を払っているように見えます。他人の苦境には手を差し伸べたり、誓ったことは自分がどれほど困ることになっても守り抜きます。これらは、誰が見ても「騎士のかがみ」とされるに相応しい振る舞いです。
しかし、この作品で面白いのは、外から見ただけでは分からないガウェインの素顔が、会話以外の部分、いわゆる「地の文」にも、さり気なく織り込まれているということなのです。例えば、一人きりの部屋で、鎖かたびらを脱いだ解放感を味わおうと部屋の中を歩き回ったり。誰かと話している間にも、内心では、疲れているから早く暖炉の前に行きたいと思っていたり。そこには、ガウェインが巧みな言葉や微笑みで隠してしまいがちな本心が、非の打ちどころのない騎士としての振る舞いと地続きに表れています。そのギャップが、この作品のガウェインの人間的な魅力をより一層高めているように、私には思えるのです。

『五月の鷹』は、子供から大人まで楽しめて、大切な宝物として本棚にしまわれていたり、ずっと心に残る一冊となるような、たくさんの魅力が詰まった物語です。現在、この作品は邦訳も原書もともに絶版になっています。邦訳の出版元であった福武書店は20年近く前に事業撤退しており、原作者のアン・ローレンスも故人であるなど、これまでは、復刊を望む声を届けることそのものが難しい状況にありました。最近になって関心を持った人にとって、この作品は、中古品でさえ希少で滅多にお目にかかれないばかりか、プレミアが付いて価格が高騰するなど、なかなか手の届かない本になってしまっているのが現状です。

発起人として、復刊を心待ちにしていた方にこの本を届けることは勿論、この企画が、誰かにとって『五月の鷹』と(そして、アーサー王の世界と)出会う切っ掛けとなることを、心から願っています。

どうか、この若きガウェインの素晴らしい旅が、多くの人のもとへと届きますように!


『五月の鷹』応援団 シオン
創作活動をきっかけにアーサー王物語の世界に足を踏み入れ、たちまち魅了された会社員。気になることを調べたり読んだりするのが趣味。好きな円卓の騎士は、ランスロットとガウェイン。 また、Twitterでは、『五月の鷹』応援団として活動しています。団員募集中。
Twitter『五月の鷹』応援団:@Shion_ALHoM