次世代にバトンを繋ぐ
17名のレズビアンたちの声
本書は、55歳から83歳(インタビュー当時)までの年齢層、社会階層、職業、生活地域の異なるレズビアン17名へのインタビューをまとめたものである。
企画は、1998年に創設された台湾初の全島的なLGBTQ支援組織・台湾同志ホットライン協会。同協会では2010年に高齢者のゲイを対象とした『虹色バス旅行:高齢者ゲイ12名の青春の思い出』(『彩虹巴士: 12位老年同志的青春記憶』)を出版しており、本書はその姉妹編といえよう。
台湾では2019年に同性婚が合法化される過程で、多くの当事者がカミングアウトし、可視化された。教育現場でもジェンダー平等教育が進められ、若い当事者の意識や周囲の環境には著しい変化が見られる。だが、55歳以上の中高年の当事者は未だに声を上げにくく、彼ら彼女らに対するイメージも固定化されがちであった。LGBTQへの理解が不十分で、嫌悪感情も根強かった時代に不幸で孤独な日々を過ごしていたのではないかと考えられていたのである。だが実際、本書に登場する17名のレズビアンを見ると、著名な歌手から初期のレズビアン運動をリードした教員、結婚して子供のいる人、アメリカや日本で生活した人まで実に様々で、困難な時代をたくましく生きぬき、多彩な人生を送ってきたことがわかる。彼女たちの存在が次の世代にバトンを渡したことは確かだ。
インタビューを文章にまとめたのは、ホットライン協会のメンバーやボランティア、ライター、大学院生などで、レズビアンだけでなくゲイやバイセクシュアルも参加している。「序文」も充実しており、これまで知られていなかったレズビアン運動史の前史を明らかにした功績は大きい。
日本でもLGBTQというと、声を上げやすいのは若者世代であり、青少年支援の団体も広がっているが、55歳以上の当事者の存在は見えにくい。だからこそ、本書はクローゼットから出づらい中高年のレズビアンに連帯のメッセージを届け、この世代ならではの課題を共有することができるのではないだろうか。翻訳・刊行が待たれる一冊である。
いつか日本のおばあちゃんたち自身に語ってもらうために
発起人:橋本恭子より
数年前、若い仲間とともに、LGBTQの若者支援を目的とした団体を立ち上げ、東京都多摩地区の複数の自治体と共同で、LGBTQの啓発講座を展開していたことがあった。会場は、公民館や男女共同参画センターなどで、若い人に来てもらえればと考えていたのだが、意外なことに、どこでも中高年の当事者がかなり参加してくださった。ほとんどが既婚者で、お子さんはもとより、お孫さんのいる方も混じっていた。
公的機関という、ある程度信頼の置ける場ということもあり、意を決していらしてくださったのかもしれないが、中高年当事者の方はそれまで抱えていた思いをぽつりぽつりと、あるいは堰を切ったように語ってくださった。その言葉の一つ一つがとても大切なものに思え、私たちには聞くべき言葉がまだまだたくさんあるのだと実感した。
近年、日本でもLGBTQをテーマにした映画やドラマ、コミック、文学作品は増えている。ただ、私たちの暮らしている地域で、本来のセクシュアリティを隠したまま生活し、年齢を重ねてきた人たちのことはさほど語られていない。本人が語る機会も用意されていない。
台湾でも事情は同じだったようで、中高年のゲイの語りが書籍化されたのは、2010年のことで、レズビアンの場合は、それからさらに10年の歳月が必要だった。だが、彼ら彼女らが勇気を持って沈黙を破り、語り始めたことで、彼ら彼女らの存在を忘れてはいけないと、台湾の同志(LGBTQ)運動史にも記載されるようになった。
『おばあちゃんのガールフレンド』に紹介されたのはわずか17人のレズビアンである。けれど、その背後には無数のおばあちゃんとそのガールフレンドがいるはずだ。もちろん、日本にも。だから、この17人の物語を、日本のおばあちゃんとそのガールフレンドに何としても届けたい。いつか日本のおばあちゃんたち自身に語ってもらうためにも。
翻訳を担当してくださるのは、『筆録 日常対話』(黄恵偵著、サウザンブックス社、2021年7月)ですでに「女性を愛する母」の物語を訳した、小島あつ子さんである。これ以上の適任者はいないだろう。