物語の舞台はスペインのバルセロナ。スーパーでレジ係のパートをしている主婦アントニアは、ある日、仕事を終え自宅に帰る途中で、車に轢かれそうになっている老人を見かける。とっさに老人を助けようとする彼女だが、不思議なことに老人はこつぜんと姿を消してしまう。どうやら彼女以外に老人を見た者はいないようだ。アントニアはスペインとカタルーニャの有名な建築家、アントニオ・ガウディの幽霊を見たのではないかと思いこみ、そのことがきっかけで、ガウディの人生と作品について深く知りたいと考えるようになる。
そうこうするうちに、ガウディが設計した歴史的建造物で、猟奇的な殺人事件が発生し、世間の注目を集める。サグラダ・ファミリア、カサ・ヴィンセンス、カサ・バトリョ、グエル公園……。事件はガウディが設計したさまざまな建造物へと広がっていき、やがてアントニアは、知らず知らずのうちに、おそるべき事件に巻き込まれていく。
アントニアが見たのは本当にガウディの幽霊だったのか?
ガウディの建造物で起きた猟奇的な殺人事件の背後には何があるのか?
2015年にはスペインのコミックイベントExpocomicで最優秀脚本賞を受賞し、2016年にはバルセロナ・コミックフェアで最優秀国民作品賞を受賞した注目作!
中面は色鮮やかなフルカラー。作中に散りばめられたガウディの荘厳な作品の数々とアクションシーンやバイオレンスシーンの対比が印象的。
【スペインのコミックについて】
スペインは地理的にヨーロッパ南東部に位置するため、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカの多くの国々と文化的、歴史的要素を共有しています。そのため、スペインでは、スペインのコミックだけでなく、海外のコミックも売られています。スペインの伝統的なコミックは 「テベオ(TBO)」と呼ばれ、主にユーモアと冒険を描いてきました。現在では、このようなコミックは少なくなっていて、欧米の他の国々でも流行している「グラフィックノベル」が増えてきています。スペインには、絵画と芸術の長い伝統がありますが、コミック産業の規模は決して大きくありません。スペインのコミック作家の中には、国際的な評価を求めて、フランスやアメリカのコミック業界で働いている人たちも多くいます。英語やフランス語で先に出版されたスペイン人作家の作品が、のちにスペインに逆輸入されることもあります。スペイン人作家が、スペインでより容易に作品を出版することができる環境が整うことを願っています。
発起人・翻訳:マリア・デル・カルメン・バエナ・ルピアネス(María del Carmen Baena Lupiáñez)より
皆さん、こんにちは! マリア・デル・カルメン・バエナ・ルピアネスと申します。マリアと呼んでください。この度、『ガウディの幽霊』というスペインのコミックを日本で翻訳出版するためのクラウドファンディングの発起人をさせていただくことになりました。
小学生の頃、叔父がスペインの昔のテベオをたくさん持っており、それがとても面白くて好きで読んでいました。その後、中高生になってアメリカのコミックを読み始めました。大学生になってからは、フランスのバンド・デシネを読み始めました。その後、日本のマンガも大好きになるのですが、その結果、今、私は日本で暮らしています。2018年に来日したとき、私は当初、日本のマンガを買って読めることがとてもうれしくて、興奮しました。とりわけ、書店の棚で売られているマンガの種類の多さに魅了されました。しかし、時が経つにつれ、様々な国の画風、多種多様なストーリーや視点を持ったコミックに触れたくなり、スペインや他国のコミックもまた読みたくなってきました。
日本で海外のコミックを探す中で、日本のマンガの量に比べ、海外のコミックが日本の書店でほとんど売られていないことに気づき、とても悲しい気持ちになりました。なによりも一番悲しかったのは、日本で売られているスペインのコミックの数が極端に少なかったことです。「もったいない! スペインにもいい作品があるのに!」
「よし、それなら、私がスペインのコミックを日本語に翻訳して紹介しよう!」と思いました。私は日本の皆さんに海外の素晴らしいコミックを知ってもらい、世界に存在する膨大な種類の作品の中から、自分の読みたい作品を選べるようになってほしいのです。
私の大好きなスペインのコミック作家の一人、エル・トーレスの『ガウディの幽霊』という作品を皆さんに知っていただきたいと強く願っています。 スリラーやホラーのジャンルを専門とするこの作家のストーリーテリングと、緊迫したクライマックスシーンを作り出す手法に、私はいつも魅了されてきました。彼はスペイン国内外で非常に有名なコミック作家であり、多くの賞を受賞し、その作品は多くの外国語に翻訳されています。そして、ヘスス・アロンソ・イグレシアスは素晴らしいイラストレーターです。驚くほど表情豊かなキャラクターと美しくカラフルな舞台を創り出す彼の能力には感服します。『スパイダーマン:スパイダーバース』の映画で見せた彼の才能は絶大です。『ガウディの幽霊』という作品におけるこの二人の偉大な作家の組み合わせは、この作品を非常に特別で、ユニークで、面白いものにしています。
皆さんもご存じかもしれませんが、2026年はアントニオ・ガウディの没後100年にあたります。ガウディの代表作であるサグラダ・ファミリアがいよいよ完成するというニュースをご覧になった方もいるのではないかと思います。サグラダ・ファミリアが本当に完成するかどうかはわかりませんが、ガウディ没後100年というこの特別なタイミングで、ぜひこの作品をお届けできればと思います。
そして、この作品をきっかけに、スペインのコミックをもっと日本の皆さんにお届けできることを心から願っています。
発起人・翻訳:マリア・デル・カルメン・バエナ・ルピアネス(María del Carmen Baena Lupiáñez)
1993年スペインのマラガ生まれ。マラガ大学で翻訳・通訳の学位を取得。当時の専門はフランス語。その後、出版翻訳を専攻。アメリカのコミックを英語からスペイン語へ翻訳することを専門にし、修士号を取得。さらに、マラガ大学でマンガ翻訳の博士号を取得。日本のマンガを日本語からスペイン語に翻訳する際の文化的、言語的、視覚的な課題を分析した。博士論文の準備期間中、フランスのパリ=ディドロ大学で9カ月間、フランスのバンド・デシネについて研究。また、日本のマンガと日本文化に関する研究プログラムの一環として、京都大学で1年半を過ごす。現在、京都在住。ゲーム翻訳にたずさわる。ダリル・グレゴリー著『Planet of the Apes: The Half Man』第4巻のスペイン語訳を担当。
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