著者:Gail Carson Levine(ゲイル・カーソン・レビン)
947年、米国ニューヨーク市生まれ。YA作家。ニューヨーク・シティ・カレッジで哲学を専攻後はニューヨーク州の福祉庁に勤める。ザ・ニュー・スクールで執筆コースを終えた後、1997年に『Ella Enchanted』でデビュー。1998年、同書でニューベリー賞のオナー賞を受賞。著書に『Dave at Night』、『The Wish』、『The Two Princesses of Bamarre 』、『Fairy Haven and the Quest for the Wand』(日本語版:『ラニーと魔法の杖』柏葉幸子 訳)、『A Tale of Two Castles』『Stolen Magic』など多数
生まれたばかりで、妖精に「従順」という贈りもの(というより呪い?)を与えられたヒロインのエラは、他者からのどんな命令にも「従順」に従わなければならないという運命を背負っている。その呪いが気に食わないエラは、おとなしく従順になるどころか、かえって反抗的な、でも明朗な少女に成長した。十五歳になる直前、最愛の母を亡くしたエラは、大人の建前ばかりが交錯している母の葬儀の場で、大声で泣き出してしまい、怒った父親に追い出される。墓地のいちばん大きな木の元で泣いていたエラは、そこで背の高い青年に出会った。褐色の巻き毛と浅黒い肌をしたその青年は、エラよりふたつ年上のシャーモント王子で……。
「シンデレラ」の物語をベースに展開する本書は、『プリティ・プリンセス』で映画デビューし、一躍スターになったアン・ハサウェイが主演した、ロマンティック・コメディ『アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス』(2004年)の原作作品だ。
知性とウィットで逆境を乗り越え、決していい子なだけではなく、ときに毒づいたりしながらも、自分の意思で幸せをつかみ取ろうとするエラは、どこにでもいそうな、あるいはあなた自身かもしれない、いまどきの女性そのもの。恋する相手との勘違いから来るすれ違い、相手に想い焦がれる気持ちなど、胸キュン要素も満載で、存分にエラに感情移入しながら読んでもらえる1冊。
※本書は2000年に、『さよなら、「いい子」の魔法』(ゲイル・カーソン・レヴィン著、三辺律子翻訳、サンマーク出版)として刊行され、現在は絶版になっている作品です。
米国『TIME』誌の《不朽の名作ファンタジー100冊》に1冊に選出
翻訳者 三辺 律子より
キリア国の裕福な家に生まれたエラは、思慮のない妖精ルチンダに「従順」という贈り物を与えられ、どんな命令にも逆らえないようにされてしまいます。とんでもない贈り物のせいでさまざまな苦難にあうエラですが、命令の抜け穴を見つけては自分の意志を通そうする、賢く明るい少女に育ちます。「ボウルを持っていて」と命令されれば、わざと動き回ったり、お葬式のとき「きちんとした服に着替えろ」と言われれば、“きちんとした”明るい色の服に着替えたり。ところが、父親が強欲なオルガ夫人と再婚したことから、継母と二人の義姉に“命令”の秘密を知られてしまい……。
意地悪な継母と二人の義姉が出てきたあたりでピンときた人もいるかも? そう、この物語はシンデレラが下敷きになっています。舞踏会やカボチャの馬車や魅力的なプリンスもちゃんと出てきます。といっても、もちろん、白馬の王子さまに幸せにしてもらう話などではありません!!! 最初、シンデレラの物語を書こうとした作者のレヴィンは、あまりにシンデレラが「いい子ちゃん」なので、書き進められなくなったといいます。「呪いというアイディアを思いついたのは、そのときでした。シンデレラは、いい子ちゃんにならざるをえなかったのです」「人はみんな、従順にふるまってしまったり……思いのままにふるまえなかったりする“呪い”をかけられているのです」従順の呪いに負けず、必死で自分らしく生きようとするエラは、決して受け身ではない、現代のプリンセスなんだと思います。
もちろん、ファンタジーとしての魅力もたくさん。エラの世界には魔法があり、エルフやオグルやノームなどがそれぞれの言語と生活習慣を持って暮らしています。この「言語」というのが、物語の第二の鍵に! この完璧に構築されたファンタジー世界と、張りめぐらされた伏線がみごとに回収されていくさまに、訳しながらうっとりしたのを思い出します。まさに〈新〉プリンセスの先がけであるエラの物語。今の時代こそ、ぜひもう一度手にとっていただければと思います!
性格のいい作家に、ろくな物語は書けない。意地の悪い作家ほど、おもしろいものを書いて、読者を喜ばせてくれる。
どこまで主人公をいじめられるか、つまりは、そこなのだ。主人公をどんどん追いつめて、あるいは、いきなり苦境に陥れて、はらはらさせてくれなくては、読者は楽しくない。その点、このElla Enchantedは十分、いや、十二分に作者の意地の悪さを証明している。
なにしろ、主人公のエレノアは誕生日に妖精から「どんな命令にも必ず従う」という『従順さ』をプレゼントにもらってしまうのだ。プレゼントというより呪いといってほうがいい。そのうえ、すぐに、それを意地悪な女の子に知られて、好きなように利用されてしまう。その妹というのがまた、姉とちがって頭が悪いからその呪いには気づかないものの、そのぶん、貪欲ときている。そしてふたりの母親といったら……なんか、そう、まるで「シンデレラ」なのだ。
そして後半、エレノアは持ち前の冒険心と賢さとやさしさのおかげで王子といい関係になるものの、その呪いのせいで、自分を犠牲に……してしまうのか!?
おい、作者、そりゃないだろう! といいたくなってしまう。
ところが、最後の最後で、それをきれいにひっくり返してみせるところが、作者の技量。ユニークな設定、緻密な構成、たくみな語りが、ここで大きく物をいう。この作品のエンディングで、心からほっとして、大きくうなずいた人もきっと多いはずだ。
「わたしって、意地悪じゃないの、ほんとは、とってもやさしいのよ」とささやく作者の姿が目に浮かぶようだ。しかし、だまされてはいけない、本当にやさしい人に、こんな、はらはらどきどきする本は書けない。
それにしても、ノーム、エルフ、オグル、巨人なんかが次々に出てくる、いかにもフェアリー、フェアリーした、フェアリー・ストーリーの話のなかに、これほど現代的なテーマを盛りこむところは、見事としかいいようがない。えっ、現代的なテーマってなに? と思った方はぜひ読んでみてほしい。きっと納得してもらえると思う。
こんな従順な女の子を(夫に/妻に)ほしいなと思っている人にも、エレノアって自分みたいと思っている人にも、自分はどっちでもないけど、とびきり面白いファンタジーが読みたいと思っている人にもお勧めです!
推薦者:翻訳者 三辺 律子(さんべ りつこ)
英米文学翻訳家。白百合女子大学、フェリス女学院大学講師。主な訳書に『龍のすむ家』シリーズ(クリス・ダレーシー著)、『モンタギューおじさんの怖い話』(クリス・プリーストリー著)、『ジャングル・ブック』『少年キム』(ラドヤード・キプリング著)、『マザーランドの月』(サリー・ガードナー著)、『エレナーとパーク』(レインボー・ローウェル著)、『世界を7で数えたら』(ホリー・ゴールドバーグ・スローン)など。共著に『今すぐ読みたい! 10代のためのYAブックガイド150』、『子どもの本 ハンドブック』ほか。翻訳家・金原瑞人氏とともに海外小説を紹介するフリーペーパー『BOOKMARK』監修。