『くろは おうさま』(原題:El libro negro de los colores)はメキシコ生まれの美しい絵本。真っ黒な紙に、銀色の文字と、光沢のある透明なインクのレリーフによるイラストと、点字によって書かれた文章が印刷されています。
そこに広がっているのは、目の見えないトマスが感じている“色”の世界。視覚障碍者と言われる人々にとっての色とはどんなものなのか、どんな感覚として伝わっているか、どんな風に認識されているか。トマスという男の子の素朴な言葉と、触れることのできる美しいイラストで描かれ、全ての感覚を使って感じ取る、色の世界の豊かさを伝えてくれます。
紙製本版には、日本語版のみのオリジナル点字シート付録が付きます。
【受賞歴】
・ボローニャ国際児童図書展 ラガッツィ賞(ニューホライズン部門) 2007
・ニューヨークタイムズ・ベスト・イラスト賞 2008
発起人、有限会社イスパニカ代表 本橋 祈より
絵本を読む「スペイン語多読の会」でこの本に出会ったとき、なんて美しい本だろう、と思いました。真っ黒な紙に透明なインクの隆起によって描かれているイラストは繊細かつ写実的であり、平山和子さんの『くだもの』(福音館書店、1981)が思い起こされました。
そして、銀色の文字で印刷された文章を読み進めて、この絵本が伝えていること、この絵本がもっている使命のようなものにも、軽い衝撃を受けました。
シンプルなスペイン語で書かれていたのは、目の見えないトマスという男の子にとっての色の世界でした。味や手触りとして語られる黄色、痛みと結びついている赤、音やにおいにたとえられる茶色。トマスにとっての青は、晴れた空を見上げてお日さまがほおに当たっているときの温かさのことなのです。
目の不自由な人にとっての色、それは決して認知できないものではなく、むしろトマスは、五感すべてを使って色を感じとっています。目で見ることなく、色を知る。感じる。認識する。そのことが、この絵本を読むことによって、小さな子どもにも伝わる仕組みになっています。
目が見えないということは色が分からないということではない。目の見えない人たちの世界の豊かさが、この絵本の文章とイラストによって、日本の多くの子どもたちに知ってもらえるとしたら、それはなんて素敵なことだろうと思いました。
子どもの世界を広げるのに大きな助けとなる絵本。メキシコで生まれたこの絵本を日本語で翻訳出版することで、日本の子どもたちの世界を広げたい。世界の豊かさの意味を子どもたちが考える機会になってほしい。そんな思いで、このプロジェクトを立ち上げました。ぜひ、この美しい本の日本語版を味わってください。
発起人:有限会社イスパニカ代表 本橋 祈(もとはし いのり)
教育系の出版社勤務を経て、現在は「日本とスペイン語圏との架け橋」を謳ってスペイン語教育などを行う有限会社イスパニカ代表。3人の子どもの母親。小さいころの思い出の翻訳絵本は、父親が買ってくれた『しろいうさぎとくろいうさぎ』(ガース・ウィリアムズ、松岡享子訳、福音館書店)。
著書に、『基礎からレッスンはじめてのスペイン語』(ナツメ社、2017)、『ひとりで学べるスペイン語会話』(共著、高橋書店、2018)。
http://www.hispanica.org/