ビール醸造所で働く語り手。ある時醸造所内で、机の引き出しに古い書物を発見する。読んでいくとそれはなんと13世紀から代々ビール醸造家に受け継がれてきた当時の醸造家による手記であった。
13世紀のドイツ。貧しい農家の長男に生まれたニクラスは、母親と一緒にビール造りをするのが好きだった。もっとビールを造りたいと運よく修道院に入ることができ、一人前の醸造家になるべく修行を始める。当時ビール醸造技術が進んでいたヴァイエンシュテファン修道院、ザンクト・ガレン修道院へと移っていき、どんどんビール造りの腕を上げていくニクラス。だが行く先々には困難も待ち受けていた……。
ある時ニクラスとの意見の食い違いが元で仲たがいし、ニクラスを逆恨みしどこまでも執拗に追い詰める幼なじみのベルナルト。生涯をかけた2人の果し合いの行方は?
中世ドイツのビール造り、中世の世界が垣間見られる、そして主人公ニクラスの波乱万丈な人生と運命をミステリータッチで描く小説。
本書の著者のギュンター・テメスからのメッセージ
日本の皆さんこんにちは!
私はギュンター・テメスといい、歴史小説の作家です。主にビールをテーマにした作品を書いています。処女作『Bierzauberer』がとうとう日本で出版の機会を得たことを、とても嬉しく、また誇らしく思っています。2008年に初版が出てから今日まで、中世のとあるビール醸造家を描いたこの物語はどんどんファンを増やしてきました。日本語訳が実現すれば、日本でも多くの方々に読んでいただけるだろうと期待しています。
皆さん、ぜひハーンフルト出身の若い醸造家ニクラスが、当代きっての醸造家になるべく、中世ドイツを生き抜く様を追ってください。たちの悪い、強力なライバルに立ち向かい、戦うニクラスと一緒に熱くなってください。ニクラスが目標にたどり着くことができるのか、彼の人生を一緒に辿りましょう。
もし今回のプロジェクトが成功すれば、シリーズ続編4作も日本での出版のチャンスができるのではと楽しみでもあります。15、17、19世紀のビール醸造の歴史が分かる面白いストーリーになっています。昔のビールレシピ、ホップやモルト、ビール純粋令、うまい醸造家そして下手な醸造家、ビールが有名な町、諸侯や王族などが登場しますが、混ぜ物をした粗悪なビールの話、そしてビールをめぐる殺人事件などの出来事も盛り込まれています。
ビールにどっぷりと浸かった中世への旅をどうぞ楽しんでください。
さあ、美味しいビールを注いで、『Bierzauberer』を開きましょう!
プロースト、チアーズ、そして乾杯!
ギュンター・テメス
【主な書評】
-histo-couch.de(歴史小説専門のオンラインショップ)(イェルク・キヤンスキー):
読む価値の十分にある、ビール醸造についての歴史小説。ビール醸造の歴史に興味を持つ人ならこの本を避けて通ることはできないだろう。ビール醸造についても包括的に描写されており、その当時のビール醸造家の仕事環境が生き生きとよみがえる。
またそれぞれの舞台となる土地で当時の一般的・政治的状況がわかる要素も取り入れており、歴史物好きな読者にも⾯⽩い読み物となっている。さらに中世の人々の日常、特に修道院の内部を垣間⾒ることもできる。中世ファン、読書家のビール好きならこれは必読書である。
賞賛すべきは結末のエピローグとそれに続く40ページもの追記である。ここには年代表および詳しい情報を求む読者のための参考⽂献やウェブサイトといった情報も豊富に紹介されている。数々の挿絵、本の表紙に合わせたしおりも本全体の印象を良好なものにしている。
-『KRIMI』ドイツの推理・犯罪小説専門雑誌:
贅沢に書かれた歴史小説
-Literature.de:(ドイツの⽂学サイト)
忠実に史実を調べ上げた歴史小説
-クリスツィアン・フォン・モントフォート (ドイツアマゾンの Top-10 評論家):
ビール醸造にまつわる、素晴らしい歴史小説。
ビール好きなら同書をぜひ読むべきである。1000 年のビール醸造の歴史を堪能した後は、飲むビールの味わいも違ったものになるだろう。
-ヴォルフガング・ノイバッハー (ドイツアマゾンの Top-10 評論家):
この本は、プロのビール醸造家・モルト製造家が書いた中世のビール醸造家についての歴史小説で、著者がテーマに最も精通していることは読んでみれば明らかだ。著者ギュンター・テメスは、読者を中世後期の世界へといざなう。そこは狂信と迷信が支配する(主人公ニクラスはこの2つに常に苦しめられる)、「進歩」は危険な⾔葉だ(現状のままでよい)、成功を得るものは特に危険にさらされる(悪魔と手をつないでいるのでは︖)教会の⼒は依然として大きいが、都市の⼒も増加していく(「都市の空気は⾃由にする」)、町の有⼒者たちは⼰の権⼒をできるだけ少数の(成功した)新参者たちとだけ分かち合おうとする、ペストやその他の疫病も変わらず存在する……。
このはらはらさせる歴史小説は、読者に一方では中世へ、また一方ではビール醸造の世界を間近に⾒せてくれる。
発起人 森本 智子より
この本に出会ったのは2009年、ドイツビールについてもっと学ぼうとしていた時でした。仕事柄ドイツの食品や飲料、食文化に関わりながら、まだまだ知らないことがあると痛感していて、ドイツでビアソムリエの取得を取ろうと決めた頃。ドイツビールについて学べる本を探していたら、この小説にたどり着いたのです。
ドイツはビールの国、とは日本人なら誰でも思うところ。日本でも飲めるドイツビールは増えていますし、詳しい人もたくさんいます。ただもっと昔は、ビールはどのように作られていたのか、その当時の人々の生活にとってどのような存在だったのかを知りたい、知る必要があると思うようになりました。
食文化はいつもそこにある人々の生活、周囲の政治、経済、地理的環境、など様々な要因から生み出されるものです。ビールもそうした食文化の一つであり、ドイツビールを語る上でそうしたことを知るのはとても興味深く、また重要なことです。
そうしたことを、この小説『ビア・マーグス ービールに魅せられた修道士』は、物語仕立てで教えてくれます。実在する場所、実際に起こった史実なども含まれ、さらにミステリーチックな要素も加わり、ビールには特に興味がない読者をも中世ドイツの世界に引き込んでしまう面白さがあります。
本作は第1作目。2021年現在5冊目までシリーズ化されています。巻を追うごとに時代が新しくなり、その都度ビールに関連する史実も織り込まれています。ドイツビールの歴史が通してわかるシリーズです:2巻目『Erbe des Bierzaubers(ビールの魔術師の遺産)』、3巻目『Der Fluch des Bierzauberes(ビールの魔術師の呪い)』、4巻目『Das Duell des Bierzauberer(ビールの魔術師の決闘)』
私だけ読んだのではもったいない、ぜひ多くの人に読んでほしい小説です。