著:ロシャニー・チョクシー(Roshani Chokshi)
若い読者向けに神話や伝説の世界を描いて高く評価されるベストセラー作家。作品はローカス賞やネビュラ賞にもノミネートされている。本作『アル・シャーと時の終わり』はTIME 誌の「不朽のベストファンタジー100」に選ばれ、先頃パラマウント・ピクチャーズが映画化についての優先交渉権を取得した。著書はほかに二部作“The Star-Touched Queen” や“The Gilded Wolves” シリーズなどがありニューヨーク・タイムズ・ベストセラーリスト入りしている。
訳:八紅とおこ(はぐれ・とおこ)
東京理科大学卒。幼少よりファンタジーや神話に興味があり、そのひとつとして聖書を読むように。教会にてメッセージ・教本・ビデオ字幕製作などの英日翻訳を多く手がけてきた。翻訳に「七つめのルール」「しゃべらない子ども」(いずれも三部作『Scream! 絶叫コレクション』理論社刊に収録)がある。ホラーでは「ゾンビもの」が好き。趣味は謎解き。
アル・シャーは、クラスメイトに馴染みたくて、つい法螺を吹いてしまう癖のある、12歳の女の子。考古学者にして博物館長、シングルマザーの母は忙しく、アルは寂しさのあまり、人の気を惹きたくて、法螺を吹いてしまうのだ。
博物館にある、恐ろしい呪いのランプ。クラスメイトに呪いの実在を疑われて、囃し立てられたアルは、つい勢いでランプに灯を点してしまう。だがその途端、ランプに封じられていた悪魔「眠れる者」が、縛めを解かれ、世界の時空が凍り付いてしまう。アルは、愛する母を凍り付いた時空から救うため、試練を乗り越えて眠れる者に立ち向かう。
マハーバーラタの主人公たるパーンダヴァ五王子。「眠れる者」が封印を解かれる度、彼らの化身が危機を止めてきた……アルが今世における化身の一人なのだ。パーンダヴァ五王子の生まれ変わりが、「眠れる者」のもたらす破滅を止めなければならない。——だが、スパイダーマンのパジャマを着た女の子に、そんな大いなる使命を果たすことができるのだろうか?
米国『TIME』誌の《不朽の名作ファンタジー100冊》に1冊に選出
参考: 著者ロシャニー・チョクシーのWebサイト
https://roshanichokshi.com/books/aru-shah-and-the-end-of-time/
現在刊行中のフレッシュな続き物で、2018年から第1巻、2019年から第2巻が好評発売中。2020年に第3巻の予定。
発起人 アル・シャー・シリーズ和訳化応援団より
本書は、ディズニーから刊行されているレーベル『リック・ライアダン・プレゼンツ』の一冊。「あまり表舞台に現れていない文化背景を持つ、中堅作家たちの作品を出版して、作家たちが受け継いだ神話・伝説に象徴される特別な物語を、世に伝えること」をテーマとしている作品群のひとつです。
参考: 『リック・ライアダン・プレゼンツ』のWebサイト
http://rickriordan.com/rick-riordan-presents/
舞台は現代アメリカ、現実世界と神話世界が入り交じる、いわゆる「ロー・ファンタジー」、馴染みやすい冒険ものです。
主人公の「アル」は、映画好きで皮肉っぽい冗談が得意な、ウィットのある女の子。彼女と試練に立ち向かう仲間は、潔癖症な優等生の「ミニ」、そして悪魔のように口喧しいハトのサイドキックこと「ブー」。
インド神話から逸話を引用して、ふんだんに物語に織り込みながら、同時に飛び交うのは、英雄らしからぬキャラクター同士のコミカルな漫才、映画ネタのジョークやパロディ。
全体的なトーンは、陽気で可愛らしいものですが——満たされない愛、家族の別離、異文化と疎外感——普遍的な苦しみの壁を、丁寧かつ自然に取り扱っています。
同一の人物が、善と悪の間を揺れ動く、二律背反な苦悩と試練。主要人物のほとんどが、家族の問題、苦悩と宿命を抱えています。
それは題材「マハーバーラタ」自体のもつ魅力と特色でもあり、主人公たちの生命を吹き込まれた個性と人生でもあり、現代の世界にありふれた普遍的なテーマでもあります。
異国の神話、はるか古代の叙事詩が題材なんて、馴染みづらいでしょうか?親しみを持って読むことができないと思うでしょうか?
遠い国、遠い昔、異なる文化からやってきた物語であっても、「相容れないもの」より「相通じるもの」のほうが、多く秘められている——きっと、本書はそんな経験を与えてくれるはずです。